ビットコインは値動きが激しくて怖い。それなら、値段が1ドルから動かないコインに置いておけばよい。そう考える人もいると思います。値段がほぼ1ドルのまま動かないように作られたコインを、ステーブルコインと呼びます。ただし、値段がほとんど動かないのは、ドルで測ったときです。円で測ると、ドルと円を交換するときの比率が動く分だけ、値段も動きます。
代表的なステーブルコインは、USDTとUSDCの2つです。USDTはTetherという会社が、USDCはCircleという会社が出しています。誰かが会社に1ドルを払うと、コインが1枚生まれます。会社は受け取った1ドルを、コインの裏に置いておきます。持ち主がコインを1ドルに戻してほしいと言ったときに、払えるようにするためです。この裏に置いたお金を、準備と呼びます。
会社は、この準備をただ寝かせてはいません。多くは、アメリカ政府の短い借金の証文か、その証文を担保にした貸し出しです。どちらにも利息がつきます。では、その利息は誰が受け取っているのでしょうか。
USDCについて、会社の決算の数で、利息を1ドルに直して分けてみました。2026年4〜6月、利息1ドルのうち約49セントは、大きな取引所のCoinbaseに渡っていました。Circleに残ったのは4割ほどです。Circleから持ち主に払われた利息は0でした。
Circleが準備から得た3か月分の利息を1ドルとして、どこへ渡ったかを分けました。青い棒がCoinbaseに渡った分です。
2026年4〜6月の額です。Circleに残った分は、配る費用と取引の費用を引いたところまでで、Circleの人件費などはまだ引いていません。ドル建てです。
出典:CircleとCoinbaseの2026年4〜6月の決算の届け出(アメリカの証券取引委員会に出した四半期の報告書)から、筆者が割り算した。数え方は元データと同じ場所の method.md・元データ
ただ、Coinbaseは、USDCを置いた会員などに報酬を払っています。その額は、同じ3か月で、利息1ドルあたり約18セントと同じ大きさでした。持ち主に利息が払われていないのなら、この報酬は何なのでしょうか。Coinbaseは、報酬を自分のお金で払っている、と書いています。この食い違いは、4つ目の節で扱います。
この記事は、どのコインを持つべきかを書きません。確かめるのは、置いた1ドルがどこにあり、その利息がどこへ行ったかだけです。金額はすべてドル建てです。
置いた1ドルの大半は、アメリカの国債か、国債を担保にした貸し出しになっていた
USDCの準備1ドルのうち、86セントが国債か、国債を担保にした一晩の貸し出しだった
Circleは毎月、準備の中身を外の会計士に確かめさせて、公開しています。2026年9月30日の報告では、出回っているUSDCは約739億ドル分でした。準備は約740億ドルで、出回っている分を少し上回っていました。
準備を1ドルに直すと、37セントがアメリカの短い国債でした。国債は、アメリカ政府がお金を借りるときに出す証文です。ここに入っていたのは、どれも3か月ほどのうちに返してもらえるものでした。
50セントは、国債を担保にした一晩の貸し出しでした。準備を預かるファンドが、世界の金融機関にお金を一晩だけ貸します。そのかわりに、貸した額より多くの国債を預かります。借りた側が返せなくても、預かった国債で取り戻せる形です。
残りの14セントは、銀行などに置いた現金でした。3つを足すと101セントになります。四捨五入と、お金の受け渡しの時間のずれのためです。ずれは1ドルあたりマイナス0.4セントでした。
USDCの準備を1ドルとして、中身を3つに分けました。青い2本が、アメリカの国債につながる分です。
2026年9月30日の時点です。このほかに、お金の受け渡しの時間のずれが、1ドルあたりマイナス0.4セントあります。ドル建てです。
出典:Circleの準備の報告(独立の会計士が確かめたもの・2026年9月30日時点)から、筆者が割り算した。数え方は元データと同じ場所の method.md・元データ
USDTの準備1ドルには、金やビットコインも入っていた
USDTの準備の報告は、2026年6月30日の時点のものが最新です。9月30日の時点の分は、10月30日に確かめた時点で、まだ出ていませんでした。
6月30日の準備を1ドルに直すと、61セントがアメリカの短い国債でした。10セントが、国債を担保にした一晩の貸し出しです。ここまではUSDCと同じ種類のお金です。残りの約3割には、値段が動くものも入っていました。金が10セント、担保をとったお金の貸し付けが7セント、ビットコインが3セントです。
この報告は、会社の決算の監査ではありません。会計事務所の系列の会社が、その1日の時点の準備の中身を確かめたものです。
アメリカの法律は、準備に置けるものを、国債などに限った
アメリカでは2025年7月に、ステーブルコインの決まりを定めた法律ができました。GENIUS法と呼ばれています。この法律は、準備に置けるものを並べています。現金、銀行の預金、3か月ほどで返ってくる国債、国債を担保にした一晩の貸し出し、そして、それらだけを持つファンドなどです。金とビットコインは、この並びに入っていません。
この法律が効き始めるのは、2027年1月18日です。法律を受け持つ役所の1つの通貨監督庁が、2026年10月に最初の細かい決まりを出しました。そのときに、この日付を示しています。
出す会社は、準備の利息を持ち主に払っていなかった
Circleは、3か月で約6億7千万ドルの利息を受け取っていた
Circleの決算では、準備から得た利息は、2026年4〜6月の3か月で約6億6,800万ドルでした。この3か月に出回っていたUSDCは、700億ドルを超えていました。これだけのお金を国債や貸し出しに回すと、利息もこの大きさになります。
Circleは、この利息を持ち主に払っていません。年次の届け出には、USDCは利息を生む作りではない、と書いています。原文は「not designed to provide yield」です。
USDTを出すTetherも、利用規約で、持ち主に利息を払うとは書いていません。規約に「利回り」を指す語(yield)は1つもありませんでした。Tetherが準備からいくらの利息を受け取ったかは、公開されていません。そのため、この記事はUSDTの利息を1ドルに直して分けることができませんでした。
アメリカの法律は、出す会社が持ち主に利息を払うことを禁じた
GENIUS法は、出す会社が持ち主に利息を払うことも禁じています。条文の頭の部分を、原文のまま引きます。
No permitted payment stablecoin issuer or foreign payment stablecoin issuer shall pay the holder of any payment stablecoin any form of interest or yield
アメリカで認められた会社も、外国の会社も、持ち主にどんな形の利息も払ってはならない、という意味です。ただし条文が禁じるのは、コインを持つ・使う・持ち続けることだけに結びついた利息です。外国の会社も入るので、USDTを出すTetherもこの文の対象です。効き始めは、準備の決まりと同じ2027年1月18日です。
利息1ドルのうち、半分ほどは取引所のCoinbaseに渡っていた
CircleとCoinbaseは、利息の分け方を契約で決めている
CircleとCoinbaseは、USDCの利息の分け方を契約で決めています。Circleの年次の届け出によると、分け方の骨は2つです。1つ目に、Coinbaseの中に置かれたUSDCの分の利息は、Coinbaseに渡ります。Circleの取り分を引いたあとの額です。2つ目に、ほかの場所にあるUSDCの分の利息は、残りの半分がCoinbaseに渡ります。
2026年4〜6月、利息1ドルのうち約49セントがCoinbaseに渡った
Circleは、2026年4〜6月にCoinbaseとの契約で約3億2,500万ドルを払いました。準備から得た利息の約6億6,800万ドルと比べると、利息1ドルあたり約49セントです。1〜6月の半年で数えても、約50セントでした。
Circleは、Coinbase以外にも、USDCを広める先にお金を払っています。それと取引の費用を合わせると、利息1ドルあたり約13セントでした。Circleに残ったのは、利息1ドルあたり4割ほどです。Circleはそこから、人件費や営業の許可にかかる費用などを払います。
Coinbaseは、受け取った額の3分の1ほどにあたる報酬を、会員などに払っていた
報酬の額は、利息1ドルあたり約18セントと同じ大きさだった
Coinbaseは、USDCを置いた人に「USDC Rewards」という報酬を払っています。Coinbaseの決算では、この報酬は2026年4〜6月に約1億1,900万ドルでした。同じ3か月のCircleの利息と比べると、利息1ドルあたり約18セントになります。Coinbaseが受け取った約49セントの、3分の1ほどの大きさです。
1つ目の図と同じ3か月の利息を1ドルとして、Coinbaseに渡った額と、Coinbaseが払った報酬の額を並べました。青い棒が報酬です。
報酬の額は、Coinbaseの決算の「USDC rewards」の行です。Circleから受け取ったお金で払ったかどうかは、開示にありません。だから、Coinbaseに渡った額を「報酬」と「残り」に分けてはいません。同じ3か月の2つの額の大きさを並べています。ドル建てです。
出典:同上・元データ
Coinbaseは、報酬を自分のお金で払う「ごほうび」だと書いている
Coinbaseの説明のページは、この報酬を、Coinbaseがお金を出すごほうびの仕組みだと書いています。原文は「a loyalty program funded by Coinbase」です。帳簿の上でも、利息の受け渡しではなく、Coinbaseの宣伝の費用に入れています。
お金には色がついていません。Circleから受け取ったお金と、会員に払った報酬を1対1で結ぶ開示はありません。だから「18セント」は、Circleの利息がそのまま持ち主に戻った額ではありません。同じ3か月に、Coinbaseが報酬として払った額の大きさです。
報酬を受け取れる人も限られています。アメリカやイギリスなどでは、Coinbaseの有料の会員だけが受け取れます。そもそも報酬は、Coinbaseに置いたUSDCにしかつきません。4〜6月の平均で、Coinbaseに置かれたUSDCは約200億ドルでした。同じ3か月に出回っていたUSDCの、4分の1ほどです。この約200億ドルには、Coinbaseが自分で持つ約30億ドルも入っています。18セントは、残りの利用者の分のうち、条件に合う人への報酬です。残りのUSDCには、Coinbaseの報酬はつきません。ほかの取引所もCircleからお金を受け取っています。その取引所が持ち主に報酬を払っているかどうかは、この記事では調べていません。
この報酬が法律の禁止に当たるかは、取り決めごとに判断される
この報酬が、出す会社が払う利息に当たるのかどうかは、まだはっきりしていません。通貨監督庁が2026年10月に出した最終の決まりは、案にあった考え方を外しました。出す会社と組んだ相手が持ち主に払うお金を、まず違反とみなす、という考え方です。かわりに、取り決めごとに、事実と事情を見て判断するとしました。この決まりが当てはまるのは、通貨監督庁が監督する出す会社です。USDCを出す会社に当てはまるかどうかは、この記事では確かめられていません。
反対側から見ると
出す会社は、準備に入れたものの値下がりの損も負っています。USDTを出すTetherは、自社の発表で、4〜6月の営業の利益を約15億ドルとしています。国債と一晩の貸し出しが中心だった、という書き方です。一方で6月30日の報告書には、1〜6月の損益を約32億ドルの赤字と載せています。準備に入れていた金やビットコインの値下がりが効いた、と私はみています。ただし損益の内訳は報告書に無く、これは推測です。外の会社が確かめたのも6月30日の1日の残高だけで、半年の損益は確かめた範囲の外です。
Circleも、利息をそのまま手元に残しているわけではありません。Circle自身が2026年10月のブログで、売上1ドルの使い道を分けて見せています。1〜6月は、約59セントを、USDCを広める先と取引の費用に払いました。約34セントを、営業の許可や銀行とのつきあい、1ドルに戻すための備えなどに使い、利益は7セントだったと書いています。分母が売上全体なので、この記事の数と少し違います。
題名の「取引所に渡った」は、別の読み方もできます。契約では、Coinbaseに渡る分の1つ目は、Coinbaseに置かれたUSDCの利息です。持ち主から見れば、自分がコインを置いた場所の会社が、その利息を受け取っているとも言えます。Circleの届け出は、2つの道で渡った額をそれぞれ書いていないので、どちらがどれだけかは分かりません。
「利息1ドルのうち、どれだけがCoinbaseに渡るか」は、新しい話ではありません。英語では、利息や売上の1ドルのうち何セントがCoinbaseへ渡ったかを書いた記事が、いくつも出ています。日本語でも、Coinbaseへ渡った割合と、Coinbaseの報酬の額を並べた記事があります。その2つの数を割れば、この記事の18セントと同じ値になります。この記事に新しいところがあるとすれば、持ち主の側まで1ドルを分けて、日本語で示したことだけです。
持ち主は、利息のかわりに別のものを受け取っている、という見方もあります。銀行の口座が無くてもドルを持てることや、国をまたいで安く送れることです。アメリカの中央銀行の職員の論文は、こうした例を挙げています。新興国の人や会社がドルを受け取り、USDTやUSDCに換えて送っている例です。この便利さを、利息と比べられる数にすることは、この記事ではできていません。
この記事が覆るとき
Circleの次の決算で、Coinbaseに渡った額を数え直します。利息1ドルあたり45セントを下回ったら、題名の「半分」を書き直します。2026年7〜9月の決算は、11月4日に出る予定です。
Coinbaseが報酬をやめたら、4つ目の節を書き直します。役所がこの報酬を禁止に当たると判断したときも同じです。Circleから受け取ったお金と報酬を結ぶ開示が出たときも、4つ目の節を見直します。CircleやTetherが持ち主に利息を払い始めたら、2つ目の節を書き直します。法律が改められて、それが認められたときも同じです。
利息の分け方と準備の中身は、決算と準備の報告が出るたびに、同じ手順で数え直します。書き直すときは、この記事のはじめに、書き直した日と理由を足します。元データ、数え方、数えた結果は、図の「元データ」から取れます。
値段が動かないコインを見たら、その裏のお金の利息が誰に渡っているかを確かめてみてください。



