イーサリアムという仕組みのコインを、イーサと呼びます。イーサは、仕組みの見張り役に預けると、利息のような報酬が付きます。預けた証拠には、預かり証のトークン(ネットの上で受け渡しできる券)がもらえます。

2024年、この預かり証を、さらに別の仕組みに預けると報酬がもう一段上乗せされる、という商品に多くのお金が集まりました。預かり証の上に預かり証を積むので、この記事では「塔」と呼びます。

では、上乗せの報酬は、実際に何で払われていたのでしょうか。

報酬の仕組みが動き始めた2024年8月から2026年10月までに、記録に残る受け取りを全部数えると、上乗せの報酬は約1.57億ドル(ドル建て)でした。その99.7%は、EIGENというトークンでした。EIGENは、塔の土台の仕組み(EigenLayer)の側が新しく刷って配るトークンです。配る側の財団も、預けられた分を「EIGENの配布で支えられた預け」と呼んでいます。ドルに値段を合わせたコインやイーサで払われた分は、約36万ドルでした。しかもEIGENの値段は下がり、受け取った報酬をいまの値段で数え直すと、受け取ったときの2割ほどしかありません。

題名の「1000円分が約180円」は、この2割ほどを、身近な円の金額に置き換えた言い方です。数えたのはドル建ての値段で、円で数え直してはいません。

新しく刷って配るトークンの報酬は、配る側が配るのをやめれば止まり、値打ちはそのトークンの値段しだいです。この記事は、どのトークンを持つべきかを書きません。確かめるのは、上乗せの報酬が何で払われたかだけです。

数えていないものもあります。2024年8月より前に配られた「ポイント」(あとでトークンに換わる約束の点数)と、塔に預けた人へのトークンの一括の配布は、この1.57億ドルに入っていません。

預かり証をもう一度預けると、報酬が上乗せされる仕組みが広がった

イーサを預けると、見張りの仕事の報酬が付く

イーサリアムでは、お金のやりとりの記録が正しいかを、イーサを預けた見張り役が確かめます。見張り役は、その仕事の報酬としてイーサを受け取ります。見張り役にイーサを預けた人にも、この報酬が利息のように入ります。この記事では、これを「ふつうに預けて得る報酬」と呼びます。

預けたイーサは、すぐには自由に動かせません。そこで、預かり証のトークンを受け取ります。預かり証は、ほかの人に売ったり、借金の担保に入れたりできます。

預かり証を塔の土台に預けると、ほかのサービスの見張りも引き受ける

EigenLayerは、この預かり証を、もう一度預かる仕組みです。ここに預けたイーサは、イーサリアムとは別のサービスの見張りにも使われます。データを預かるサービスや、値段を知らせるサービスなどです。この記事では、こうしたサービスを「外のサービス」と呼びます。

外のサービスは、見張りの仕事の報酬を払います。それが上乗せの報酬になる、という作りでした。その代わり、見張り役が仕事を怠ると、預けたイーサを削られることがあります。

EigenLayerに預けると、また新しい預かり証がもらえる商品も生まれました。ether.fi、Renzo、Kelp、Pufferといった会社の商品です。この記事では、これを「塔の預かり証」と呼びます。塔の預かり証も、借金の担保に入れられます。1枚のイーサが、預かり証、塔の土台、塔の預かり証、借金の担保と、段を重ねて使われたのです。

2024年6月には、塔の土台に約530万枚のイーサが集まっていた

2024年6月15日、EigenLayerに預けられていたイーサは約530万枚でした。集計サイトの値です。6月18日の時点で、その上に出ていた塔の預かり証は、大手4社の分を合わせて約360万枚でした。

段の重なり方を、ether.fiで見ます。2024年6月18日には、ether.fiに預けられたイーサの約18%が、借金の担保の段まで積まれていました。預かり証を別の券に包み、その券を貸し借りの場に担保として預けた分です。

上乗せされた報酬のほとんどは、仕組みの側が新しく刷ったトークンだった

受け取りの記録を全部数えると、上乗せの報酬の99.7%はEIGENだった

EigenLayerの報酬は、受け取るたびに記録が残ります。2026年10月28日までの記録は、213,511件ありました。これを全部足し、受け取ったころの値段を掛けました。値段は約30日ごとの区切りの、真ん中の日の値段です。

合計は約1.57億ドルでした。そのうちEIGENが約1.56億ドルで、99.7%を占めます。枚数にすると、約1.36億枚のEIGENが受け取られていました。別の集計サイトも同じ記録を数えていて、その合計は約1.63億ドルでした。こちらとの差は約4%です。

2026年10月29日 取得上乗せの報酬1000円分のうち、約997円分はEIGENで払われていた

受け取ったころの値段で上乗せの報酬を1000円分とし、1マスを1円分として、何で払われたかを塗り分けました。青はドルに値段を合わせたコインとイーサ、枠だけのマスはほかの会社のトークン、灰色はEIGENです。

ドルに合わせたコインとイーサ 約2円分 ほかの会社のトークン 約1円分 新しく刷られたEIGEN 約997円分

値段はドル建てです。値段の付いていないトークンと、削られた預け金の受取証は、数に入れていません。円の金額は、ドル建ての割合を円に置き換えたものです。

出典:EigenLayerの報酬の受け取りの記録(Ethereumの記録・2024年8月〜2026年10月28日の213,511件)に、DefiLlamaの過去の値段を掛けて筆者が計算・元データ

EIGENは、配る側が毎週、新しく刷って配っている

EIGENを配る財団は、配る分を「新しく刷ったEIGEN」と書いています。はじめは、最初の総量の4%を毎年新しく刷る決まりでした。毎週、同じ量を刷っています。2025年10月からは、毎週刷る量が約1.8倍になりました。

毎週刷り始めてから2026年10月28日までに、EIGENの数は差し引きで約1.83億枚増えました。上で数えた約1.36億枚は、その約4分の3にあたります。ただし、刷ったEIGENが受け取りの記録までどう流れたかは、全部は追っていません。受け取られたEIGENの大半は、全員向けに配る窓口から出ていると読めます。これは記録の形から読んだもので、窓口の名前では確かめていません。

財団は2025年12月の文書で、預けられた分を「EIGENの配布で支えられた預け」と呼んでいます。原文は「stake that is subsidized by EIGEN incentives」です。

外のサービスが自分で買って払ったEIGENもありうるが、分けて数えていない

EIGENの一部は、外のサービスの窓口から配られていました。外のサービスが、自分の稼ぎからEIGENを買って払った分も、あるのかもしれません。その分は、分けて数えていません。

ですから、99.7%は「何で払われたか」の割合です。「どこからお金が来たか」の割合ではありません。

受け取った報酬は、トークンの値段が下がって、いまの値段では8割ほど目減りしていた

受け取ったときの1000円分は、2026年10月28日の値段では約180円分だった

受け取られた約1.36億枚のEIGENは、受け取ったころの値段で約1.56億ドルでした。同じ枚数を、2026年10月28日の値段の約0.20ドルで数え直すと、約0.27億ドルです。受け取ったときの1000円分が、約176円分になった計算です。題名では、これを約180円と丸めました。

これは、受け取った人がいまも同じ枚数を持っていたら、という仮定の数です。受け取ってすぐ売った人は、この目減りを受けていません。誰がいつ売ったかは、記録からは分かりません。

2026年10月29日 取得受け取ったときに1000円分だった報酬は、2026年10月28日の値段では約180円分だった

約30日ごとに、受け取られたEIGENの値打ちを、受け取ったころの値段(灰色)と、2026年10月28日の値段(青)で比べました。単位はドルです。

0 1000万 2000万 3000万 受け取ったころの値段で いまの値段で 2025年 2026年

受け取ったころの値段は、約30日の区切りの真ん中の日の値段です。2026年の区切りには、受け取ったころよりいまの値段のほうが高いものがあり、青い棒が灰色の棒の上に出ています。

出典:EigenLayerの報酬の受け取りの記録(EIGENの154,372件)を約30日ごとに足し、DefiLlamaの過去の値段と2026年10月28日の値段を掛けて筆者が計算・元データ

受け取った値打ちが大きかったのは、2024年10月から2025年1月までです。このころのEIGENの値段は、いまの10倍を超えていました。目減りの半分あまりは、このころに受け取った分から出ています。

トークンの数は2年で1割増え、値段は20分の1になった

EIGENは毎週新しく刷られるので、数は増え続けています。2024年10月1日から2026年10月28日までに、EIGENの総数は10.4%増えました。同じあいだに、値段は約4.01ドルから約0.20ドルへ、95.1%下がりました。

数が増えた分だけ1枚の値打ちが薄まったとすると、値段は約1割下がる計算です。実際の下げは、それよりはるかに大きいものでした。刷り足したことだけでは、値段の下げのごく一部しか説明できません。

2026年10月29日 取得EIGENの数は1割増え、値段は20分の1になった

2024年10月1日を100として、EIGENの総数(灰色)と値段(青)の動きを比べました。

0 50 100 トークンの数 110 値段 4.9 2025年 2026年

値段はドル建てです。値段の点は、日付のそろわない31点をつないでいます。EIGENが売り買いできるようになったのは2024年9月30日で、数え始めを変えると下げの割合も変わります。

出典:EIGENの総数はEthereumの記録(totalSupply)、値段はDefiLlamaの過去の値段から筆者が作成・元データ

値段が下がった理由は、この記事では決めない

値段の下げには、ほかの理由の候補もあります。同じあいだに、イーサは約1割下がり、ビットコインは約3割上がりました。暗号資産の相場全体だけでも、EIGENの下げは説明できません。

もう1つの候補は、売り止めの解除です。財団の文書では、投資家と初期の関係者の分は、はじめの1年間は売れない決まりでした。そのあとは、毎月少しずつ売れるようになります。報道と集計サイトの推計では、市場に出回っているEIGENは約5倍に増えました。2024年10月の約1.9億枚が、2026年10月には約9.8億枚です。ただし、この推計は記録から数え直していません。2つの集計の数え方がそろっているかも、確かめていません。

どの理由がどれだけ効いたのかは、測っていません。この記事で言えるのは、刷り足しの分だけでは、下げのごく一部しか説明できないところまでです。

外のサービスから入ったお金は、上乗せの報酬のごく一部だった

ドルに値段を合わせたコインとイーサで払われた分は、約36万ドルだった

EIGEN以外で払われた上乗せの報酬は、受け取ったころの値段で約53万ドルでした。そのうち、ドルに値段を合わせたコインとイーサが約36万ドルです。イーサは90.55枚、ドルに値段を合わせたコインは約10万ドル分でした。上乗せの報酬全体の約0.23%で、1000円分に置き換えると約2円分です。

残りの約16万ドルは、外のサービスの会社が自分で出したトークンでした。ドルやイーサではなく、その会社自身のトークンです。

外のサービスが払う報酬は、育っていなかった

塔の作りの上では、上乗せの報酬は、外のサービスが見張りの仕事に払うお金のはずでした。数えた範囲では、その分はごくわずかでした。受け取りの件数も減りました。2024年10月ごろは月に約4.6万件、2026年は月に1,000件から6,000件ほどです。

値段の付いていないトークンは、0円とは数えず、数から外しました。削られた預け金の受取証も、報酬の窓口を通って配られていました。これは報酬ではないので外しました。受取証のことは、次の節で書きます。

大手の一つは、報酬が割に合わないとして上乗せをやめた

上乗せの報酬は、どの四半期も、ふつうに預けて得る報酬より小さかった

四半期ごとに、上乗せの報酬と、同じ量のイーサをふつうに預けて得る報酬を比べました。上乗せの報酬にはEIGENの分も入れています。上乗せがいちばん大きかった2024年10月から12月でも、ふつうの報酬の約半分でした。そのあとは、おおむね小さくなっていきました。

この比べは推計です。比べる相手の「EigenLayerにあるイーサの量」は、集計サイトの値です。この値は、2026年4月からは、塔から引き揚げたイーサも含んでいます。その分、2026年のふつうの報酬は大きめに出ています。ただ、2026年の比べの値は、どの四半期もふつうの報酬の8分の1以下でした。比べる相手が数倍大きすぎたとしても、ふつうの報酬には届きません。

上乗せの代わりに、預けたイーサを削られる約束を負っていた

預けたイーサを削る仕組みは、2025年4月17日に本番で動き始めました。この仕組みは、見張り役が自分で選んで加わった仕事にだけ効きます。削られたのは、2026年6月14日までに15回です。

15回のうち2回は、ごく小さな量の試しでした。残りの13回は、罰ではありませんでした。預けた人のイーサを、別の預け先へ移すために使われていました。移した量と同じだけ、移した先の受取証が、預けた人に配られています。13回のうち10回は、同じ見張り役が、自分の運営する預け先へ移したものです。預けた人の中には、事前の知らせを見ていなかったと訴えた人もいます。15回の中に、仕事を怠った見張り役を罰として大きく削った例は、見当たりませんでした。

塔の預かり証を担保に積んだ分は、別の仕組みの事故で、貸し手の損を生んだ

2026年4月18日、Kelpの預かり証を別の場所へ送る仕組みが破られました。裏づけの無い預かり証が、約11.65万枚出されました。そのうち約9万枚が、貸し借りの場のAaveに担保として預けられました。それを担保に、イーサが82,650枚借り出されました。Aaveの見積もりでは、貸し手の損は約1.24億ドルから約2.30億ドルです。

原因は、預かり証を送る仕組みの設定でした。Aaveの報告も、Aave自身の仕組みは破られていないと書いています。塔の作りそのものが壊れたのではありません。ただ、塔の預かり証が担保に積まれていたので、1つの事故が貸し手の損にまで届きました。

2024年4月24日には、Renzoの預かり証が、一時イーサの半分以下の値段で売り買いされました。

ether.fiは2026年に、預かりのほとんどを塔の土台から引き揚げた

大手のether.fiは、EigenLayerに預けていたイーサのほとんどを引き揚げました。引き揚げたのは、2026年4月21日から7月8日にかけてです。ether.fiの文書によると、2026年8月の時点で塔の土台に残したのは、預かりの1%未満です。原文は「less than 1% of protocol assets remained restaked」です。

預かり証をもう一度預けることを、英語では再ステーキングと呼びます。ether.fiの社長は取材に、「再ステーキングに意味のある利回りの機会は無かった」と答えました。この発言は報道を通したもので、元の発言は確かめていません。

ポイントが終わるころに、預かりが大きく減った商品もあった

Renzoの塔の預かり証は、2024年6月の約106万枚から、10月には約32万枚へ減りました。Pufferの塔の預かり証も、2024年10月の約53万枚から、2025年1月には約8万枚へ減りました。どちらも、ポイントを配っていたころの山から7〜8割の減り方です。

ただし、ポイントの終わりと時期が重なるだけで、原因とは言えません。Renzoの預かり証は、ポイントが終わる前に、すでに半分近く減っていました。Pufferは、トークンを配り始めた日に、引き出しもできるようになっています。EigenLayer全体では、ポイントが終わってからも1年半ほど、預かりが大きくは減りませんでした。大きく減ったのは、2026年のether.fiの引き揚げからです。

反対側から見ると

担保を何度も使い回すことは、昔からの金融でもふつうに行われています。株や債券を担保に借り、その担保をまた別の人が使うことは、日常の仕組みです。塔の高さそのものを、珍しい危うさと見るのは言い過ぎかもしれません。

刷ったトークンで報酬を払うのは、この仕組みだけではないという見方もできます。ふつうに預けて得る報酬でさえ、一部は新しく発行されるイーサです。

塔を作った側も、この形を直そうとしています。財団は2025年12月に、これからは手数料を払う外のサービスにだけ配る、と書きました。英語では、外のサービスをAVSと呼びます。原文は「only fee-paying AVSs will be eligible」です。

イーサの枚数で見ると、塔の下の段は崩れていません。ふつうに預けた預かり証の数は、2024年6月から2026年10月まで、ほぼ同じでした。減ったのは、塔の土台から上の段です。

上乗せの報酬の中身が刷ったトークンだという指摘は、英語の記事にすでにあります。この記事で新しいのは、受け取りの記録を全部数えた数と、それをいまの値段で数え直した数だけです。受け取りを全部数え、いまの値段で数え直した記事は、私が探した範囲では見つかりませんでした。

「1000円分が約180円」は、2026年10月28日の値段で数えたものです。値段が動けば、この数も動きます。受け取ってすぐ売った人にとっては、目減りはありませんでした。

この記事が覆るとき

書き直す条件は、EIGEN以外で払われた分が、ある四半期の上乗せの報酬の半分を超えたときです。そのときは「上乗せの報酬のほとんどは刷ったトークンだった」を書き直します。

数え方は、この記事と同じです。EigenLayerの報酬の受け取りの記録を全部足し、受け取ったころの値段をドル建てで掛けます。値段の付かないトークンと、削られた預け金の受取証は数えません。書き直すときは、この記事のはじめに、書き直した日と理由を足します。

元データ、計算の定義、計算の手順は、図の「元データ」から取れます。

上乗せの利息と聞いたら、それが何で払われるのかを確かめてみてください。