ビットコインなどの暗号資産は、値段が大きく上がったり下がったりします。それなのに、暗号資産で物を買ったり、人に送ったりする人がいます。銀行を信じない人や暗号資産の好きな人が、自分で選んで使っている。そう思う人は多いと思います。
アメリカの中央銀行にあたるFRBは、毎年、大人のお金の暮らしを調べています。2025年10月の調査では、約1万3千人が答えました。そのうち、暗号資産を買い物や送金に使った人たちは、使ったいちばんの理由も答えています。
では、暗号資産で払う人は、何のために暗号資産を選んだのでしょうか。
いちばん多かった答えは「受け取る相手が暗号資産を望んだから」で、4人に1人でした。「銀行を信じないから」は、14人に1人です。払った人の7人に6人は、銀行の口座も持っていました。暗号資産で払った人の4人に1人は、受け取る相手に合わせて暗号資産を使っていたのです。
この記事では、物を買う・支払う・人に送るの3つをまとめて「払う」と呼びます。暗号資産の値段がこれからどうなるかは予想しません。確かめるのは、誰が何のために払っていたかだけです。
アメリカで暗号資産を払うのに使う人は、持っている人よりずっと少なかった
FRBの調査は、過去1年に暗号資産で何をしたかを聞いています。投資として買ったり持ったりしたか。物を買ったり支払ったりしたか。家族や友人に送ったか。この3つを、いくつでも選べます。
2025年の調査で、暗号資産を投資として持っていた大人は、10人に1人近くいました。払うのに使った大人は、100人に2人ほどです。
アメリカの大人のうち、過去1年に暗号資産を投資として持った人と、物を買ったり支払ったりするのに使った人の割合です。調査は毎年10月ごろです。
FRBが四捨五入して整数で載せた値です。家族や友人への送金に使った人は、5年とも1〜2%でした。
出典:FRB「Economic Well-Being of U.S. Households in 2025」(2026年5月)の表33・元データ
払うのに使う人の少なさは、この5年でほとんど変わっていません。投資として持つ人は、2021年の11%から2023年の7%へ減り、2025年に9%へ戻りました。そのあいだも、買い物や支払いに使った人は毎年1〜2%でした。
別の調べで、1か月という短い期間に区切った数もあります。FRBの報告書が引く、アトランタの連邦準備銀行の2024年の調べです。連邦準備銀行は、FRBとともに中央銀行の仕事をする、地域ごとの銀行です。ひと月のあいだに暗号資産で支払った大人は0.3%、300人に1人ほどでした。現金で支払った大人は83%です。
払うのに使った人の多くは、投資としても持っている人でした。FRBは、答えた人1人ずつの答えを、名前を伏せて公開しています。そこから数えると、払うのに使った人の10人に7人は、投資としても暗号資産を持っていました。
この調査は、ネットで答える形です。報告書は、そのために新しい技術を使う人の割合が高めに出るかもしれない、と断っています。
払う人が挙げた理由は、「銀行を信じない」より「受け取る相手が望んだ」のほうがずっと多かった
FRBは、暗号資産で払った人に、いちばんの理由を7つの中から1つだけ選んでもらいました。
暗号資産を払うのに使った大人が選んだ、いちばんの理由の割合です。青い棒が「受け取る相手が暗号資産を望んだ」です。
答えた人は279人です。割合は、アメリカの大人の年齢や性別などの割合に合わせてFRBがつけた重みで数えています。
出典:FRBの家計の調査(2025年10月)の公開データから筆者が数えた。FRBの報告書の表34と同じ値になる。数え方は元データと同じ場所の method.md・元データ
いちばん多く選ばれたのは「受け取る相手が暗号資産を望んだから」で、4人に1人ほどでした。そのあとに「速く送れる」「人に知られにくい」「安く済む」が続きます。「銀行を信じないから」は7%で、14人に1人ほどでした。
FRBの報告書も、この並びを書いています。いちばん多かった理由は、お金を受け取る人や店が暗号資産を望んだことでした(the person or business receiving the money preferred cryptocurrency)。安全や、銀行を信用しないことを挙げた人は比較的少なかった、とも書いています。
銀行の口座を持っているかを見ても、銀行を避けて暗号資産で払う人は少数でした。公開された答えから数えると、払うのに使った人の7人に6人は、銀行の口座を持っていました。
ただし、口座を持たない人に限ると、払うのに使った人の割合は高くなります。報告書によると、口座の無い大人では6%、口座のある大人では2%でした。口座の無い大人はもともと少ないので、払った人を人数で数えると、大半は口座のある人になります。
「受け取る相手が望んだ」を選んだ人の3人に2人ほどは、人への送金ではなく、買い物や支払いだけに使っていました。相手の多くは、物やサービスを売る店や人だったと考えられます。ただし、調査は相手が誰だったかを聞いていないので、これは推測です。
「受け取る相手が望んだ」を選んだ人の割合は、詐欺にあった人を外してもほとんど変わらなかった
相手に求められて払った人のうち、詐欺で払わされた人はどれくらいいるのでしょうか。「相手が望んだ」という答えは、そう読むこともできます。
同じ調査は、この1年で詐欺にあったか、そのとき何で払ったかも聞いています。クレジットカードの不正な使用を除いた詐欺です。この答えを、払った理由の答えと突き合わせました。FRBの報告書には無い数え方で、公開された答えから私が数えたものです。
理由に答えた279人のうち、いちばん最近の詐欺に暗号資産がからんだと答えた人は27人でした。この27人を外して数え直しても、「受け取る相手が望んだ」は25%のままでした。7つの理由のどれも、動いた幅は1ポイントより小さいものでした。
上の図から、いちばん最近の詐欺に暗号資産がからんだと答えた27人を外して、理由の割合を数え直しました。白い縦の線が、外す前の割合です。
外したあとの人数は252人です。詐欺の質問は、過去1年のうち、いちばん最近の詐欺について聞いています。
出典:同上・元データ
「受け取る相手が望んだ」を選んだ人のうち、暗号資産がからむ詐欺にあった人は10人に1人ほどでした。ほかの理由を選んだ人では12人に1人ほどで、大きな差はありません。相手に合わせて払った人だけが、とくに詐欺にあっていたわけではありませんでした。
この確かめには限りがあります。外せたのは、詐欺にあったと自分で気づいて答えた人だけです。詐欺と気づかないまま払った人は、外せていません。
反対側から見ると
4人のうち3人は、受け取る相手の希望ではない理由を選んでいました。「速く送れる」「人に知られにくい」「安く済む」の3つを合わせると、半分ほどになります。自分の都合で暗号資産を選んで払う人も、少なくありません。
答えた人が279人と少ないことも、弱いところです。人数が少ないと、4人に1人という割合にも幅が出ます。計算で見積もると、「受け取る相手が望んだ」の本当の割合は、5人に1人から3人に1人弱のあいだと見るのが安全です。2番目の「速く送れる」との差は小さく、別の年の調査では順番が入れ替わることもありえます。
受け取る相手の希望が理由の上のほうに来ることは、英語ではすでに書かれています。FRB自身が報告書に書いています。カンザスシティの連邦準備銀行は2025年9月に、年ごとの変化を分析しました。その分析で相手の希望を挙げた人は、2022年で約20%、2024年で35%超でした。そこから、相手に言われて使う受け身の使い方が増えてきた(more passive)と読んでいます。ただ、2025年は26%で、2024年より下がりました。受け身になり続けているとまでは、いちばん新しい年の数からは言えません。
相手の求めで払う形は、取り戻せない損にもつながります。同じ報告書では、暗号資産がからむ詐欺にあった人の65%が、取り戻せないお金を失っていました。デビットカードがからむ詐欺の31%の、2倍ほどです。暗号資産は、払ったあとに取り消すのが難しいからだと考えられます。ただし、これは報告書が理由として書いたことではなく、私の推測です。
日本語の報道は、私が2回探した範囲では、払った理由の数まで触れていませんでした。この記事に新しいところがあるとすれば、それを日本語で示したことと、詐欺にあった人を外して数え直したことだけです。
この記事が覆るとき
FRBの次の調査で、「受け取る相手が望んだ」を選んだ人が「銀行を信じない」と同じくらいまで減ったとします。そのときは、題名と2つ目の節を書き直します。
詐欺で払わされたかどうかを、調査が払った人へ直接聞き始めたときも見直します。「受け取る相手が望んだ」の中に詐欺の分が多いと分かったら、3つ目の節を書き直します。
書き直すときは、この記事のはじめに、書き直した日と理由を足します。元データ、数え方、数えた結果は、図の「元データ」から取れます。
暗号資産で払う話を聞いたら、それを望んだのが払う人なのか、受け取る人なのかを確かめてみてください。



