TVLやユーザー数が伸びている──一見すると「どのプロジェクトも順調」に見えます。
しかし蓋を開けると、トークン価格がきちんと報われるプロジェクトと、プロジェクトだけが稼いでトークンが取り残されるプロジェクトが、はっきりと分かれます。
違いを生むのは“話題性”ではありません。
プロトコルが生み出す収益や価値が、どれだけトークンホルダーに届くように配線されているか──この設計の差が、長期のパフォーマンスを決定づけます。
この記事では、その配線の太さを「トークン価値への伝達率」という軸で整理し、
直感だけに頼らず、プロジェクトの伸びとトークン価値の“つながり方”を見抜くためのチェックポイントをまとめます。
この“伝達率”を入口に、規模(TVL)・稼ぎ(実質利回り)・回転率(利用率)と合わせて読むことで、より立体的な投資判断ができるようになります。
なぜ「プロジェクト」と「トークン」を分けて考えるべきか
「プロジェクトが伸びればトークンも伸びる」は危険なショートカット
一見すると同じように見える成功指標でも、実はプロジェクトがどこへ伸びていくのかと、トークン価値がどう反応するのかは全く別物です。
クリプトの情報を眺めていると、
「TVLランキング上位」「手数料収入◯位」「ユーザー数が過去最高」──こうした華やかな数字が毎日のように流れてきます。
そこで多くの投資家が無意識にショートカットしてしまうのが、
「プロジェクトが絶好調=トークン価格も上がるはず」という早合点です。
しかし現実には、
- プロジェクトはインフラとして定着しているのに、トークン価格は長期でじわじわ下落する
- 逆に、プロジェクト規模はそこそこなのに、トークンだけ異様に強い
といった逆転現象が普通に起こります。
その違いを生む核心が、「稼ぎと権利が、誰にどの順番で届く設計なのか」です。
誰が「利益を受け取る構造」になっているのか
プロジェクトが生む収益は、ざっくり次のいずれかの“財布”に流れ込みます。
- 開発チーム・創業者
- VC・初期投資家
- DAOトレジャリー(プロジェクトの共通財布)
- サービス利用者(手数料還元・ポイントなど)
- トークン保有者・ステーカー・LP
同じ「TVL 10億ドル」でも、
- 収益の大半がチームやVCに流れる設計
- 収益の一部がガバナンストークン保有者に分配される設計
では、トークンの価値に効く“パイプの太さ”がまったく異なります。
誰にどれだけ利益が届く設計かを読むことが、投資判断の中核になります。
この記事で使う「トークン価値への伝達率」という考え方
プロジェクトの稼ぎや成長が、どれくらいトークン価値に届くのかを評価するために、この記事では便宜的に「トークン価値への伝達率」というラベルを使います。
これは精密な数式ではなく、次の3点をひとまとめに捉えるための“物差し”です。
- プロジェクトがどこでお金を稼ぎ
- そのお金や権利が誰に配分され
- トークン保有がその流れにどれほど関与するのか
次のセクションでは、この「収益 → トークン」へのつながり方を、代表的な4つの配線パターンに整理して解説します。
収益→トークンへの配線図:4つの代表パターン
ガバナンス専用トークン(伝達率:低〜中)
もっともシンプルなのが、「投票権としてだけ機能するトークン」です。
- プロトコル収益はトレジャリーや開発に再投資される
- トークン保有による直接的な配当・買い支えはない
- 代わりに、運営方針を決めるガバナンス権を得られる
このタイプは、
- プロジェクトの収益が直接トークンに流れにくい
- 将来的に「fee switch」をオンにするなど、ガバナンスで設計変更できる余地がある
という構造が多く見られます。現時点では伝達率が低めでも、
- トレジャリーが着実に積み上がっている
- 将来、収益の一部をトークンに還元できる設計が温存されている
といった状況なら、“今は薄いが、オプション価値はある”という見方も成り立ちます。
▼まとめ:今は弱いが、将来の「収益還元スイッチ」が残された設計。
フィーシェア・リアルイールド型(伝達率:中〜高)
次は、プロトコル収益の一部をトークン保有者やLPに直接配分するタイプです。
- 手数料の一定割合をステーカーへ分配
- トレジャリー収入の一部を定期的に還元
- LPポジションの手数料収入がそのまま利回りになる
この構造だと、
- ユーザー増加 → 手数料収益が増える
- 収益の一部がトークン保有者に届く
という流れで、プロジェクトの「本業の稼ぎ」がトークン価値に反映されやすくなります。
ただし、注意すべき点は2つあります。
- 利回りのうち、どれが“本業”でどれが“トークンばらまき”なのか
- 配分ルールが、長期的に持続可能な設計かどうか
ここは別記事で扱う「実質利回り(リアルイールド)」とも深く関わります。
▼まとめ:稼ぎの伸びがそのままトークンに届く“最短ルート”だが、持続性チェックが必須。
Buyback & Burn 型(伝達率:中〜高 / 設計次第)
3つ目は、プロトコル収益の一部でトークンを買い戻してバーンするタイプです。
- 収益が増えるほど市場でトークンが買われて消える
- 供給減を通じて、1トークンあたりの価値を引き上げる設計
このモデルは、
- 収益増 → 買い圧力増 → 供給減 → 価格に効きやすい
という意味で、伝達率は相対的に高くなりやすい設計です。
ただし、実際には以下のような注意点もあります。
- 買い戻しに使われる金額が極端に小さい
- バーン頻度やルールが曖昧で、マーケ的な「バーンしてますアピール」で終わる
そのため、“どれくらいの規模・ペースで実行されているか”を定量的に確認することが重要になります。
▼まとめ:価格連動性は強いが、「買い戻し量と頻度」が本当の核心。
ポイント・株式・他資産経由の間接型(伝達率:ケースバイケース)
最後は、プロトコルが生む価値がオンチェーンのネイティブトークン以外に帰属する設計です。
- 株式(上場・未上場)
- ポイント・マイル
- オフチェーンのストックオプション的インセンティブ
この場合、トークンは
- ガバナンス参加用のチケット
- エコシステム内の決済手段の一部
としては機能しても、収益の主な受け皿は別に存在するケースが多くなります。
そのため、
- プロジェクトとしては成長している
- しかし、トークンホルダーに直接利益が届く仕組みは薄い
という構図になりがちです。
「このプロジェクトに賭けたい」と「このトークンを保有したい」は別問題として切り分ける必要があります。
▼まとめ:価値は“別の受け皿”に乗りやすく、トークン投資は慎重な線引きが必要。
トークン価値への伝達率をざっくり測る3ステップ
気になる銘柄を前にしたとき、伝達率をどう評価すればいいのか。
ここでは、A0〜A1でもすぐに回せる3つのチェックステップに分解して整理します。
ステップ1:プロトコルは「どこで」お金を稼いでいるかを見る
このステップでは、そのプロジェクトが“何を本業として稼いでいるのか”を一瞬で掴むことが目的です。
まず押さえたいのは、収益の源泉です。代表的なパターンは次の通りです。
- トレードやスワップの手数料
- レンディングの金利差・清算手数料
- MEVリベート・オークション収入
- RWAの利回り(国債・社債・不動産など)
- ブロックスペースの利用料(L2のガス代など)
Docs や公式ダッシュボードには必ず、どこで収益が発生しているかが書かれています。見るべきはシンプルに2点:
- プロジェクトの「本業」は何か?
- その本業が、継続的にお金を生みそうか?
まずはこの“収益の出どころ”を掴むところから始まります。
ステップ2:そのお金は「誰の財布」に入る設計かを見る
次に重要なのが、収益がどこに帰属するかです。チェックしたいポイントは以下の通りです。
- トレジャリー(DAOの共通財布)に積み上がっているか
- LP・ステーカー・ノード運営者に直接配られているか
- チーム・VC・財団の取り分が大きすぎないか
- トークン保有者として、その流れにどの立場で関わるのか
ここで見るべき本質は、
- 「トークン保有」と「収益の流れ」がどれくらいリンクしているか
- リンクしているなら、それが利回り/買い圧/ガバナンス権など、どんな形で現れるのか
もしトークン保有と収益の流れがほぼ無関係なら、その銘柄の伝達率は低めと判断できます。
ステップ3:将来オンになり得る「スイッチ」を探す
最後に、今はオフでも、将来オンにできる構造がないかを確認します。代表例は次の通りです。
- fee switch(収益をトレジャリー → 将来トークン保有者に配分できる設計)
- buyback & burn の導入余地
- ガバナンス投票による収益配分ルールの変更余地
ホワイトペーパー、ガバナンス提案、フォーラムの議論を追うと、次の2つが見えてきます。
- 現時点の伝達率
- 将来「上げられる余地」
伝達率が低めでも、
- トレジャリーが十分に積み上がっている
- fee switch や収益シェアの議論がすでに始まっている
といったケースは、「伝達率の上振れオプション」として評価できます。
「プロジェクトは強いのにトークンは弱い」パターンと、その逆
プロジェクト好調・トークン微妙の典型パターン
ここでは、プロジェクトは成功しているのにトークンだけ報われない“よくあるズレ”を可視化します。
伝達率の視点で見ると、「サービスとしては大成功しているのに、トークンは報われにくい」パターンがはっきり見えてきます。
- TVLやトランザクションは増加している
- 手数料収入も安定している
- しかし収益は主にトレジャリーやチームに溜まり、トークンホルダーには直接届かない
この構図では、投資家として合理的な行動は次のようになります。
- サービスそのものは便利なので、ユーザーとしては利用する
- しかしトークンを投資として厚く持つかは別問題として考える
この“使う/投資する”の線引きができるかどうかは、長期パフォーマンスに大きく影響します。
トークンと収益がかみ合ったときに起きること
反対に、伝達率が高く設計されているプロジェクトでは、価値がトークンに届く循環が発生します。
- ユーザー増加 → 手数料収益増加
- 収益増加 → トークンへの還元(利回り・買い戻しなど)増加
- 還元増加 → トークン需要・ステーキング需要が増える
このように、正のループが回り始めると、プロジェクトとトークンが同じ方向に成長しやすくなります。
ただし注意点もあります。
- あまりに「投資商品そのもの」に寄りすぎると規制リスクが高まる
- 還元を増やしすぎると、プロジェクトの成長投資に回す余力が減る
つまり、「伝達率が高ければ正義」ではないということです。あくまで、他の要素とバランスを取ったトークン設計かどうかを見る必要があります。
ただし、この循環だけでは投資判断としてはまだ不十分です。次に気をつけたいのは──
伝達率だけで判断すると危ないポイント
伝達率は非常に強力な視点ですが、これ“だけ”で投資判断を完結させるのは危険です。特に注意したいポイントは以下の通りです。
- 伝達率が高くても、稼いでいる絶対額が小さければ意味が薄い
- 伝達率が低めでも、大きな成長オプションを持つプロジェクトは多い
- 短期トークノミクス(ロック解除・インセンティブ配布)による売り圧は別軸で効く
伝達率とは、あくまで
- 「このプロジェクトは、トークンホルダーをどの位置に置いているか」
- 「プロジェクトの稼ぎとトークン価値をつなぐパイプはどれくらい太いか」
を見抜くためのフレームにすぎません。
TVL、実質利回り、利用率など他のKPIと組み合わせて初めて立体的な投資判断ができるようになります。
投資家のための簡易チェックリスト
最低限これだけは確認しておきたい5つの質問
最後に、銘柄をチェックするときに使える簡易チェックリストをまとめます。
Docs や公式ダッシュボードを開きながら、1つずつ答えてみてください。
- このプロジェクトは、具体的にどこでお金を稼いでいるか?
- そのお金は最終的に誰の財布に入る設計か?
(チーム/VC/トレジャリー/ユーザー/トークンホルダー) - トークンを持つことで、そのお金の流れにどの立場で参加できるか?
(ガバナンスのみか、利回り・買い戻しに関わるのか) - 今はオフでも、将来オンにできる「スイッチ」はあるか?
(fee switch、buyback、収益分配ルールの変更余地など) - 収益とトークンの関係が、規制リスクを過度に取りに行っていないか?
この5つにざっくり答えられるだけでも、
- 「プロジェクトとしては優秀だが、トークン投資はほどほどに」
- 「ここは伝達率が高いので、リサーチを一段深掘りする価値がある」
といったメリハリのある投資判断がしやすくなります。
今後のKPIシリーズとのつながり
CryptoDepthでは今後、以下のテーマも記事として掘り下げていく予定です。
- 実質利回り(リアルイールド)
──その利回りはどこから来ているのか?を分解するシリーズ - 利用率・回転率
──TVLが「眠っている」のか、「きちんと稼いでいる」のかを見るシリーズ
これらを重ねることで、
- TVL(規模)
- 実質利回り(本業の稼ぎ)
- 利用率・回転率(どれだけ回しているか)
- トークン価値への伝達率(その稼ぎがどれだけトークンに届くか)
という、CryptoDepthが目指す“投資家向けの4本柱”が揃います。
今後の個別銘柄分析では、この「伝達率」の視点も織り込みながら、
「プロジェクトとしての良さ」と「トークン投資としての妙味」を丁寧に切り分けていきます。
どんなプロジェクトでも、最後に価値が届く道はトークン設計で決まります。それを見抜く力があれば、長期の投資判断で大きな差がつきます。





