クリプトの世界には「年利◯◯%」「2桁APRが当たり前」といった刺激的な数字があふれています。ですが、その中にはトークンばらまきや短期キャンペーンで一時的に膨らませた“演出された利回り”も多く、数字だけ見て飛びつくと痛い目を見やすいのが実態です。
本当に見たいのは、キャンペーンや配布を取り除いたあとにどれだけ“地の利回り”が残っているか──プロジェクトの本業が生む実質利回り(リアルイールド)です。
利回りには、レンディング、LP、ファーミングなどさまざまな形がありますが、この記事では多くの人が最初に触れる「ステーキング利回り」を題材にしながら、利回りの中身を見抜くためのフレームを整理します。この視点は、ゆくゆくはDeFi、RWA、L2、DePIN、AI×Blockchainなどにも横展開できる、投資家の“基礎体力”になる考え方です。
なぜ「実質利回り」を見ないと痛い目を見るのか
高APRに釣られて入ってしまう典型パターン
クリプト初心者がつまずく最初の落とし穴が、派手なAPRやステーキング利回りにそのまま飛びついてしまうパターンです。流れはだいたい同じです。
- Xで「年利100%」「◯◯チェーンで超高利回り」と流れてくる
- 取引所やウォレットのEarn画面で「この銘柄は◯◯%」と書いてあるのを見つける
- とりあえず資金を入れてみる
- しばらくするとキャンペーンが終わり、APRもTVLも同時に崩れる
このとき多くの人は、
- 「何でこんなに利回りが落ちたの?」
- 「最初の数字は何だったの?」
と疑問を持ちますが、答えは非常にシンプルです。利回りの大部分が“配り物”だった──ただそれだけです。
利回りの源泉を分けて考える必要がある
一口にAPRと言っても、その中身は複数の材料が混ざった“ごった煮”になっています。
- トークン配布・ポイントなどのインセンティブ由来の利回り
- 手数料や利息などの本業収益由来の利回り
- 価格上昇やレバレッジによる「利回りっぽく」見えるだけの数字
これらを全部まとめて「APR」として眺めていると、
- 補助金やキャンペーンが切れた瞬間に崩れるタイプ
- インセンティブが薄れても地力で回せるタイプ
の違いがまったく見えなくなります。
この記事でいう「実質利回り(リアルイールド)」とは
そこでこの記事では、次のように定義します。
- 短期的なトークン配布やキャンペーンを除いた
- プロジェクトの本業から生まれる利回り
これを便宜的に「実質利回り(リアルイールド)」と呼びます。
正確な数学モデルではありません。むしろ、
- この利回りはどこまでが事業としての稼ぎなのか
- どこからが配り物・プロモーションなのか
をざっくり切り分けるための“ラベル”として使うイメージです。最初はステーキングの利回りから、このラベルを当てはめて考えてみるだけでも効果があります。
利回りの「材料」を分解する3つのバケツ
表示APRの中身を3つのバケツに分解した図 画面に表示されている利回り(APRなど)が、実質利回り・一時的利回り・錯覚的な数字の3つで構成されていることを示す図。
本業収益(手数料・利息など)由来の利回り
最初のバケツは、プロジェクトがサービスを提供することで得ている本業の収益から生まれる利回りです。配り物ではなく、ユーザーが日常的に使うことで自然に積み上がる“地力”の部分です。
- DEXのトレード手数料
- レンディングの金利差や清算手数料
- RWAの裏付け資産からの利息
- L2のブロックスペース利用料
- DePIN / AI×BCのGPU・ストレージ利用料
ステーキングで言えば、ネットワークの手数料や、バリデータが担う“ブロック生成の仕事”に近いイメージです。このバケツが大きいほど、短期インセンティブが減っても崩れにくい構造になります。
トークンばらまき・インセンティブ由来の利回り
2つ目のバケツは、プロジェクトがユーザーを集めるために自前のトークンやポイントを配って作っている利回りです。見えているAPRの多くが「配り物」で膨らんでいます。
- LPにネイティブトークンを配って利回りを高く見せる仕組み
- エアドロやポイント目的で人を引き寄せる“ファーミング”
- ステーキング画面で期間限定で上乗せされるキャンペーン
火付け役にはなりますが、仕組みに持続性はありません。
- 配布予算が尽きれば止まる
- トークン価格が落ちれば、名目APRも一瞬でしぼむ
そのため、このタイプの利回りを見るときは、「これはいつまで続くのか?」「その原資は誰が負担しているのか?」という視点が重要です。
価格変動を「利回りっぽく」見せているだけのもの
3つ目のバケツは、そもそも利回りではないのに数字だけ派手に見えるものです。
- トークン価格の上昇をAPRに含める表示
- レバレッジ前提の「うまくいけば高利回り」に見える数字
- リスク(インパーマネントロス・清算)を無視した表示
どれも一見大きな数字ですが、価格が落ちた瞬間に逆方向へ跳ね返る“幻の利回り”です。判断するときは一度まるごと切り離して考えるのが安全です。
ステーキング利回りをざっくり判断するフレーム
インセンティブ抜きで「どれくらい残るのか?」を見る
まずは素朴な問いから入ります。
「このAPRから、キャンペーンやボーナスを抜いたら、ざっくりどれくらい残る?」
ステーキング画面には小さく但し書きがあります。
- ◯◯キャンペーン中+◯%
- インセンティブの一部はプロジェクト負担
こうした説明を読みながら、
「これはベース利回り/これはキャンペーン分」
とざっくり区別できれば十分です。もしベースがほぼゼロ〜数%なら、今のAPRは“配り物”寄りと見て割り切るのが妥当です。
ステーキング利回りで最低限見るべき3ポイント
難しい計算をしなくても、この3つだけ押さえれば判断の質が上がります。
- 誰のお金から払われているか?
インフレからか、手数料からか。ざっくり分かればOK。 - いつまで続く設定か?
キャンペーンなのか、常設なのかで意味が変わります。 - 価格が下がったときのリスクは?
単純ステーキングか、リステーキングやレバが絡んでいるか。
最初のうちは、「ベースはインフレ+手数料、上乗せはオマケ」くらいの理解でOKです。
利回りの持続性をざっくり考える
もう一歩だけ進むなら、「この利回りがビジネスとして続くか?」をざっくり見ます。
- ユーザーはその手数料を払えるか?
- 競合が半額で出してきたら勝てるか?
- 規制や発行体リスクで止まらないか?
数字そのものより持続性を見るのが「実質利回り」の基本です。
他ジャンルにも使える「実質利回り」の視点
同じ考え方は、レンディング、DEX、RWA、L2、DePIN、AI×BCなどにもそのまま応用できます。
レンディング・DEXの実質利回り
- 金利差・手数料(コア収益)
- インセンティブ報酬
見るべきは、
- 「インセンティブゼロならどれくらい回る?」
- 「ユーザーが払ってもいいと感じる水準?」
RWAの実質利回り
- 裏付け資産(国債・社債・不動産など)
- 資産自体の利回り
「なぜ国債3%の時代に10%が提示できる?」 と問うだけで怪しい案件を避けられます。
L2 / DePIN / AI×BC の実質利回り
- ブロックスペース利用料
- GPU・ストレージ・帯域の利用料
- 報酬の源泉がネイティブ発行か、外部からの現金か
本質的には、「外から入るお金がどれくらいあるか」が持続性を左右します。
投資家のための簡易チェックリスト
利回りを見たときに自問したい5つの質問
- 利回りの源泉は何か?(インフレ・手数料・配布・価格上昇など)
- キャンペーンをすべて抜いたら何%残る?
- 残った利回りはユーザー体験を壊さずに続けられる?
- 他社が半額の手数料で出したら勝てる?
- この記事の視点と、別記事の「トークン価値への伝達率」はどう噛み合う?
この5つに答えるだけで、
- 「これは短期キャンペーンとして割り切ろう」
- 「これは地の利回りが強いからウォッチ対象」
という判断が自然にできます。
CryptoDepth内での活用
この記事の視点は、以下の他のフレームと組み合わせると威力が増します。
- TVL:資金の規模
- 利用率・回転率:資金の動き
- 実質利回り:本業の強さ
- トークン価値への伝達率:稼ぎがトークンに返ってくる度合い
今後の銘柄分析でも、これらを踏まえて「プロジェクトの強さ」と「投資対象としての妙味」を分けて書いていきます。
ステーキング利回りに心が揺れそうになったときは、ぜひこの記事を思い出して「この利回りはどのバケツから来ている?」と一度立ち止まってみてください。





