Aaveは「預ける・借りる」という金融の基本動作をオンチェーン化した代表的なレンディング基盤です。仕組みそのものはシンプルですが、複数チェーンで流動性インフラとして使われる中で、預けられる資産量や需要の広がりがプロトコルの価値を決めていきます。
この記事では、Aaveがどんな経済圏を狙い、どこで収益が生まれ、AAVEトークンと価値がどれほど結びついているのかを投資家目線で整理します。競合やリスクも踏まえ、「この銘柄が自分の投資基準に合うのか」を判断する材料をまとめました。
- DeFiの中でどこまで「当たり前の存在」で居続けられるかが投資の核心。
- GHOやL2展開は追い風だが、AAVEの価値につながる流れはまだ途中段階。
- この記事で「どんな状況なら買う/持つ/手放すか」を自分の中で線引きできるようになる。
定義と価値提案:このプロジェクトは何者か
預金と融資をオンチェーン化する「流動性プール」
Aaveは、ユーザーが預けた資産をひとつのプールにまとめ、そこから他のユーザーが借りられる仕組みを提供します。預け手は金利やインセンティブを得て、借り手は過剰担保を差し入れたうえで必要な資産を借りる構図です。
運営が資産を預かる中央管理型ではなく、ルールはスマートコントラクトとして公開されています。外部から検証できる透明性があり、仕組みが正しく動く限り、運営主体に依存しにくい点が特徴です。投資家にとっては、利用需要が積み上がるほどプール全体が“動く資産”として育つ感覚に近いプロトコルです。
DeFi全体の「流動性レイヤー」を目指すポジション
Aaveは単なるレンディングアプリにとどまらず、他のアプリやウォレットが上に乗れる“流動性レイヤー”を志向しています。複数チェーンに同じ仕様のプールを展開することで、どこからでも同じ体験で借入・預入できる環境を整えているためです。
この構造は、Aaveのプールを基盤として使うDeFiプロトコルやアグリゲータの増加につながります。採用が広がるほど預かり資産(TVL)が厚くなりやすく、プロトコルの存在感も高まりやすい仕組みです。投資家は、Aaveが“流動性の通り道”としてどこまで定着するかを見ていく必要があります。
出典: [1]
主要プロダクト:収益と需要の入り口
レンディングプール(Aave V3)のコア機能
Aaveの中心となるのが、Aave V3に代表されるレンディングプールです。ユーザーはETHや主要ステーブルコイン、L2トークンなどを預け入れ、利用状況に応じた変動金利で利息を受け取ります。借り手は担保価値の一定割合まで資産を借りられ、その金利がプロトコルの主な収益源です。
V3では、リスクの高い資産だけを隔離する「アイソレーションモード」や、相関性の高い資産間で効率よく担保と借入を組める「E-Mode」などを追加しました。安全資産とリスク資産を同じプールに置きながら、全体の健全性を保ちつつ利用効率を高める仕組みです。投資家から見ると、Aaveの収益の“核”がこのV3の運用ポリシーにあり、どれだけ安定的に需要を吸収できるかが注目ポイントになります。
出典: [1]
GHO:Aave発の担保型ステーブルコイン
GHOは、Aaveが設計した過剰担保のドル連動ステーブルコインです。ユーザーは対応するプールに資産を担保として預け、その上にGHOを発行します。返済時にはGHOをバーンし、担保を引き出す仕組みで、MakerDAOのDAIに近い設計です。
GHOが広く使われるほど、Aaveに預けられる担保資産や、金利・手数料由来の収益が増えやすくなります。一方で、現時点では需要が立ち上がりきっておらず、採用拡大のペースが投資家の見極めポイントです。GHOが本当に“自前の需要エンジン”になれるかどうかが、Aave全体の伸びに直結します。
出典: [2]
マルチチェーン展開と今後の拡張余地
AaveはEthereumに加え、Polygon、Arbitrum、Optimismなど複数のL2・サイドチェーンに展開しています。チェーンごとに扱う資産やリスクパラメータを調整し、それぞれの特性に合わせたレンディング市場を作っている点が特徴です。
今後はチェーン追加や、ステーキングトークン(LST)など担保資産の拡張も議論されています。対応チェーンと資産の広がりはTVLや手数料収入のポテンシャルを押し上げますが、同時にリスク管理の難易度も高まります。どこまで拡張を進めるかはDAOの判断であり、投資家は「成長余地とリスク負荷のバランス」を見る必要があります。
仕組みの要点:資産が逃げにくい構造か
過剰担保と清算メカニズムの設計
Aaveでは、借り手は担保価値より小さい額しか借りられません。資産ごとにLTV(借入可能比率)や清算閾値が設定され、価格下落で担保価値が一定ラインを割ると清算が実行される仕組みです。
清算は第三者の清算人が債務を肩代わりし、その見返りとして担保の一部を割引取得する形で進みます。このメカニズムにより不良債権を早めに処理し、プール全体の健全性を保ちやすくしています。急激なボラティリティでも機能停止しにくいかどうかは、投資家にとって“資産を預け続けられる基盤か”を判断するうえで重要なポイントです。
出典: [1]
リスクフレームワークとセキュリティ体制
Aaveは、スマートコントラクトのバグやオラクルの不具合、担保資産の流動性低下など複数のリスクを前提に設計されています。コードは外部監査を複数回受け、継続的なバグバウンティプログラムも稼働しています。
さらにDAOは外部リスクプロバイダーと連携し、各資産のリスクを定期的に評価してLTV・清算閾値・利用上限を調整しています。マルチチェーン化に伴うネットワークリスクやブリッジリスクも整理されており、どのリスクをどこまで許容する設計なのかが比較的明確です。投資家は「透明性と更新頻度」を見ることで、Aaveの安全性がどれだけ担保されているかを判断しやすくなります。
トークンの使われ方:価値が循環する設計か
AAVEトークンの役割とセーフティモジュール
AAVEトークンは、Aave DAOのガバナンストークンとして機能します。パラメータ変更や新資産の上場、GHO導入といった重要な意思決定はAAVE保有者の投票で決まります。
またAAVEをステークしてセーフティモジュールに参加すると、プロトコルが損失を負った際のスラッシュリスクと引き換えに報酬を受け取ります。この仕組みは保険基金に近く、トークン保有者とプロトコルの安全性を同じ方向に揃える役割を担います。投資家にとっては、「トークンを保有することがリスク管理とどう結びつくか」を理解するうえで中心的なポイントです。
手数料・GHOとの連動と今後のユースケース
AAVEの価値は、直接的なキャッシュフローよりもガバナンス権とセーフティモジュールへの参加インセンティブに紐づいています。一方で、GHOの発行量や手数料配分の設計は提案次第で変化する余地が大きく、ここが投資家にとって「将来の伸びしろ」と「不確実性」の両方になります。
GHOでは特定ステーカーへの金利割引などの案も議論されており、トークン保有者・GHOユーザー・プロトコル収益をどう循環させるかが焦点です。現時点では、トークン価値とプロトコル収益の結びつきは発展途上で、AAVEを保有することでどこまで実需が反映されるのかは今後の制度設計に左右されます。
競合の最小比較:他と比べた強みと物足りなさ
主要レンディングプロトコルとの立ち位置
レンディング領域にはAaveのほかにCompoundやMorphoなどがあり、どれも預金と融資のマッチングを担います。対応チェーン、金利モデル、効率性の重視度といった点がプロトコルごとに異なります。
Aaveはマルチチェーン対応とリスク管理の厚さ、機能面の豊富さに強みがあります。一方で、よりシンプルで低コストなレンディングや、AaveやCompoundのプールを活用して効率を高めるMorphoのような改善レイヤーも台頭しつつあります。投資家にとっては、「安全性と機能の厚み」を評価するAaveと、「低コストとシンプルさ」で比較される競合とのバランスをどう見るかが論点になります。
| プロジェクト | 動向 | 特徴(ひと言) |
|---|---|---|
| Aave | 安定 | マルチチェーン展開とリスク管理が厚いレンディング基盤 |
| Compound | 安定 | シンプルでEthereum中心のレンディング |
| Morpho | 急拡大 | Aave・Compound上で効率を高めるレイヤー |
投資家の見方:今どこまで進み何を見ていくか
採用スナップ
Aaveは個人ユーザーに加えて、DeFiアグリゲータや自動化ツール、DAOトレジャリなど幅広い主体に使われています。特にL2では手数料が低く、小口ユーザーでも扱いやすい環境が整ってきました。
またステーブルコインやLSTが担保として使えるため、比較的リスクを抑えた利回り目的の需要にも応えています。一方で、GHOはまだ成長途中で、どこまで実需がつくかは継続的に見ていく必要があります。投資家にとっては「既存の採用がどれだけ安定しているか」と「新プロダクトがどれだけ追加の需要を生むか」が判断軸になります。
| ユースケース | 連携先/採用先 | 基盤(チェーン略号) |
|---|---|---|
| レバレッジ運用・自動最適化 | DeFiアグリゲータ・自動最適化ツール | ETH/ARB/OP |
| 利回り商品・セービング | ステーブルコイン運用プロダクト | ETH/POL |
| トレジャリ運用 | DAOトレジャリ・ファンド | ETH |
評価スコア
採用と安定性には強みがある一方で、トークン価値と収益の結びつき、GHOやL2展開といった成長要素は外部環境の影響も大きく、進展にばらつきが出やすい領域です。このバランスを見ることがAave投資の視点になります。
| 項目 | スコア |
|---|---|
| 採用と稼働 | 4/5 |
| 安定運用 | 4/5 |
| 経済のつながり | 3/5 |
| 拡張性 | 4/5 |
| 競争優位 | 4/5 |
| リスク管理 | 4/5 |
| 成長の芽 | 3/5 |
| 総合 | 3.8/5 |
総合は3.8/5。レンディング領域での信頼性は高い一方、今後の伸びはGHOの実需要やL2市場の広がり、競合との位置関係により左右される余地があります。
リスク最小セット:主要論点を押さえる
Aaveを投資対象として見るときは、技術的リスクに加えて、トークン経済・規制・競争といった外部要因まで含めて考える必要があります。どれも突然顕在化する可能性があり、短・中期の値動きにも影響する部分です。
スマートコントラクト/オラクル/マルチチェーンのリスク
Aaveはオープンソースのスマートコントラクト上で動作し、監査やバグバウンティが重ねられています。それでもコードやオラクルの不具合がゼロになるわけではありません。取り扱う資産規模が大きいほど、攻撃対象になりやすい点は避けられない前提です。
マルチチェーン展開では、各チェーン固有のリスクやブリッジの脆弱性も加わります。ネットワーク停止やハッキングといった外部要因の影響を受ける余地があり、どのチェーンのどの市場にどれだけ資産を置くかは投資家側の管理ポイントになります。
トークン経済とインセンティブの歪み
AAVEはガバナンスとセーフティモジュールに強く結びついていますが、報酬として配られるトークンは市場で売却される可能性があり、売り圧になる側面があります。報酬が高すぎると短期インセンティブに偏り、低すぎるとセーフティモジュールの参加が細るなど、設計バランスが難しい領域です。
GHOのような新しいプロダクトが増えると、収益をどの程度トークン保有者に還元し、どれだけ成長投資に回すかといった配分の議論も増えます。ガバナンスの意思決定が長期ホルダー寄りか、短期ユーザー寄りかによってもリスクの見え方は変わります。
出典: [3]
規制・マクロ環境・競争による相対的な地位の変化
ステーブルコインやDeFiレンディングに対する規制強化は、GHOを含むAaveのビジネスに影響し得ます。金利環境が変わればオンチェーン利回りの相対的な魅力が薄れ、預入資産やTVLが減る可能性もあります。
さらに、競合プロトコルの進化もAaveの立ち位置に影響します。低コストや高効率を打ち出すサービスが台頭すれば、ユーザーや開発者が流れるリスクがあります。Aaveが「標準」としての地位を維持できるかどうかは、今後も注視するポイントです。
Q&A
Q. この銘柄の将来性を見るうえで、一番大事なポイントは?
Aaveが「DeFiの基盤インフラ」として継続的に使われるかどうかが軸になります。TVLや展開チェーンの広がりに加え、GHOなど新しいプロダクトがどれだけ実需を作れるかを見ると、長期的なポジションの強さを判断しやすくなります。
Q. トークン価格だけ見ても意味がある?
価格だけでは判断材料が不足します。Aaveを評価するには、預かり資産、借入残高、清算状況、GHOを含む新機能の利用状況など、オンチェーンの動きとあわせて確認する必要があります。実態の利用と安全性がトークン価値にどう反映されているかを見る視点が重要です。
Q. 短期と長期でどう見方を変える?
短期では、金利の変動やGHOリリース、規制ニュースといったイベントが値動きを左右します。長期では、Aaveがどのチェーンでどれだけ「当たり前のインフラ」として定着するか、そしてトークン経済と収益がどこまで噛み合うかを軸に見ると整理しやすいでしょう。
付録
- Aave Docs — Risks — https://aave.com/docs/resources/risks
- GHO Documentation — Overview — https://docs.gho.aave.com/overview
- Aave Docs — AAVE Token — https://aave.com/docs/guides/aave
- DefiLlama — Aave Protocol — https://defillama.com/protocol/aave
- Compound — Documentation — https://docs.compound.finance/
- Morpho — Documentation — https://docs.morpho.org/
- Capponi & Obadia — Decentralized finance: on blockchain-and smart contract-based financial markets — https://arxiv.org/abs/2101.08778



