ブロックチェーンはこれまで「一枚岩」の設計が主流でした。つまり、コンセンサス(合意形成)・実行環境・データ保存といった役割をすべて1本のチェーンが担ってきたのです。しかし、このモノリシック構造には限界があります。取引が増えれば遅延し、拡張すればセキュリティが弱まる──いわゆるトリレンマ問題です。
そこで登場したのがモジュラー型ブロックチェーンです。役割を「コンセンサス」「実行」「データ可用性」などに分離し、複数のレイヤーで分担する構造を採用。2025年現在、CelestiaやEigenLayerをはじめとする新興勢力が台頭し、L2・DePIN・クロスチェーンの発展とも密接に関わりながら、市場を牽引するテーマへと成長しています。
目次
モジュラー型とは何か ─ 定義と役割
定義と基本構造
モジュラー型とは、ブロックチェーンの主要機能を分離・再構成して提供する設計思想です。具体的には:
- コンセンサスレイヤー:トランザクションの正しさを検証
- 実行レイヤー:スマートコントラクトを処理
- データ可用性レイヤー(DA):誰でも取引データを検証できる状態を保証
従来型のL1(モノリシック)はこれらをすべて自前で処理していましたが、モジュラー型は得意分野を切り出し、それぞれに特化したチェーンを組み合わせることで性能を最大化します。
なぜ注目されるのか
- スケーラビリティ:役割分担により、処理性能を柔軟に拡張できる
- 柔軟性:用途に応じてDAや実行環境を選択できる
- 相互運用性:L2や他チェーンとの接続性を高め、クロスチェーン連携を推進
仕組みと構造
従来型(モノリシック)との違い
モノリシック型は「自社で倉庫から配送まで全部やる企業」に近く、拡張性は低いが一体感は強い。対してモジュラー型は「倉庫は専門会社、配送は物流大手に外注」といった分業モデルに近く、コスト効率と柔軟性が高い点が特徴です。
モジュラー設計の代表例
- Celestia:データ可用性に特化。多様なL2やアプリチェーンの基盤。
- EigenLayer / EigenDA:Ethereumのセキュリティを再利用し、外部プロジェクトが信頼性を借りられる「リステーキング」モデル。
- Avail:Polygon発のDAレイヤー。スケーラブルな設計で注目。
課題と投資リスク
複雑化と依存リスク
分業による柔軟性の裏で、依存関係の複雑化が課題です。例えばCelestiaのDAを利用する多数のチェーンが存在する場合、その停止や障害が波及的なリスクとなります。
規格の乱立
モジュラー型は標準化が進んでおらず、「どのDAを使うか」「どの実行環境に依存するか」で断片化が進行する可能性があります。これにより流動性やエコシステムが分散し、投資リターンを削ぐリスクがあります。
トークン価値還元の不透明性
多くのモジュラー型プロジェクトでは、利用料が必ずしもトークン保有者に還元されるとは限らない問題があります。特にDAレイヤーは利用されても、その収益モデルが明確でないケースが見られます。
セキュリティ責任の分散
役割を分割することで「誰が最終的に責任を持つのか」が曖昧になりがちです。セキュリティの境界がぼやけることで、ハッキングやバグの責任が押し付け合いになるリスクもあります。
解決策と進化の方向性
標準化と相互運用性の確立
モジュラー型の普及には標準規格が不可欠です。CelestiaやAvailはSDKを整備し、L2やアプリチェーンが簡単に接続できるようにしています。さらにIBCやOP Stackなど、他のインフラとの統合も進んでおり「相互運用性のあるモジュラー基盤」が投資家から注目されています。
リステーキングによるセキュリティ強化
EigenLayerはEthereumのステーカーからセキュリティを借りる「リステーキング」モデルを採用。これにより新興プロジェクトでも高いセキュリティを享受でき、投資家にとっては「資産の安全性」を担保する仕組みとして大きな意味を持ちます。
収益モデルの明確化
利用手数料の一部をトークンホルダーに還元する仕組みや、ステーキング報酬の分配設計が進められています。特にモジュラー型DAは「利用されるほど報酬が増える」トークノミクスの確立が鍵となります。
UX改善と抽象化
ユーザーにとっては「どのDAを使っているか」は重要ではありません。今後はバックエンドでモジュラー設計を活かしつつ、フロントではシンプルな体験を提供する流れが主流になるでしょう。
主要プロジェクト比較(2025年)
総評(クイック一覧)
以下は主要モジュラー型インフラの特徴を簡潔にまとめたものです。
プロジェクト | 総評コメント |
---|---|
Celestia | モジュラー型DAの先駆者。L2基盤として採用拡大。 |
EigenLayer / EigenDA | Ethereumのセキュリティを再利用。リステーキング市場を牽引。 |
Avail | Polygon発。スケーラブルなDA基盤。 |
Mantle | EigenDAを採用。モジュール設計L2の代表例。 |
Fuel | 実行環境に特化。高性能モジュラー実行レイヤー。 |
評価軸1:役割の特化
プロジェクト | 特化領域 |
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Celestia | データ可用性 |
EigenLayer | リステーキング(セキュリティ共有) |
Avail | データ可用性 |
Mantle | L2+外部DA統合 |
Fuel | 実行レイヤー |
評価軸2:規模と採用
プロジェクト | 採用状況 |
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Celestia | L2・アプリチェーンで多数導入 |
EigenLayer | TVL数十億ドル規模。急成長中。 |
Avail | Polygon系L2との連携が拡大 |
Mantle | EigenDAを実用化した最初期のL2 |
Fuel | 開発段階だが技術力評価が高い |
評価軸3:トークン経済
モジュラー型は「利用料→トークン価値還元」の明確さが差別化要因です。
プロジェクト | トークン価値設計 |
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Celestia(TIA) | DA利用料の支払いに直結 |
EigenLayer | ETHリステーキング。自前トークンは補助的 |
Avail | DA利用料ベース。インセンティブ未整備 |
Mantle | MNTトークンで手数料・ステーキング |
Fuel | 今後の設計次第。実行環境利用料に連動予定 |
モジュラー型に投資する際の着眼点
安定基盤 ─ Celestia
モジュラー型の中核を担うCelestiaは、今後の多数チェーンにとって必須インフラになり得ます。安定した成長枠として注目。
成長株 ─ EigenLayer
リステーキング市場を創出したEigenLayerは、TVLの増加とともに成長性が最も高い銘柄のひとつです。ただし規制リスクは要警戒。
戦略的分散 ─ Avail・Mantle・Fuel
AvailはPolygon系の成長と連動、Mantleは既にEigenDA実装済、Fuelは高性能実行環境として長期ポテンシャルを秘めます。分散的に保有することで、個別リスクを軽減可能です。
今後の展望(2025→)
2025年以降、モジュラー型は「共存と分業」が進むと予想されます。特にDA市場はCelestiaとAvailの二強構造に、EigenLayerがセキュリティ共有で横断的に絡む形が主流になりそうです。さらにFuelや新規実行レイヤーが普及すれば、用途特化型チェーンの多様化が一気に進むでしょう。
まとめ
モジュラー型ブロックチェーンは、トリレンマを乗り越える新たなインフラとして拡大しています。課題はあるものの、用途に応じてDA・実行・セキュリティを組み合わせる仕組みは、今後のWeb3全体の基盤になる可能性が高いです。投資家は、安定(Celestia)、成長(EigenLayer)、戦略的分散(Avail・Mantle・Fuel)を意識したポートフォリオ構築を検討すべき時期にあります。