相場が大きく動くのは、どんなときでしょうか。
株でも為替でも仮想通貨でも、その背景には必ず「資産の変化」と「通貨の変化」の両方があります。
例えばBTC/JPYなら、ビットコインの価値が動く時もあれば、日本円の価値が動く時もあるのです。
ところが、多くの投資家はビットコインや株のニュースばかりを追い、もう一方の日本円や米ドルなど法定通貨の動きには目を向けません。
この記事では、経済構造から法定通貨の価値を読み解き、あらゆる市場で勝率を高めるための視点を解説します。
目次
資産価格は「資産の価値 × 通貨の価値」で決まる
多くの投資家が見落とす“もう半分”
価格は必ず「資産の価値」と「通貨の価値」の掛け算で決まります。どちらか一方が動くだけでも価格は変わりますし、両方が同じ方向に動けば変化は倍加します。
例えばBTC/JPYが上がるためには、BTCの価値が上がるか、円の価値が下がるか、その両方が同時に起きる必要があります。逆に、どれだけBTCの価値が上がっても、円も同じ割合で価値が上がれば価格は変わりません。
下落も同じ構造です。BTC/JPYが下がるのは、BTCの価値が下がるか、円の価値が上がるか、あるいはその両方です。株式や金、不動産でも、通貨側の動きを考えずに価格変動を理解することはできません。
通貨価値を無視すると分析が不完全になる理由
例えばBTCUSDTの上昇は、BTCの需要増加や採用拡大といった資産側の要因だけでなく、USDの購買力低下という通貨側の要因も影響します。この二重構造を理解していないと、ニュースで語られる「価格上昇」の半分を見落としてしまいます。
通貨価値の視点を取り入れることで、仮想通貨はもちろん、株式や金、不動産など全ての資産クラスの価格変動をより正確に読み解けます。
通貨価値が下がるメカニズム
通貨供給量(M2)の増加と価値の希薄化
M2は市場に出回る通貨の総量を示す指標です。供給が増えるほど、1単位あたりの通貨価値は薄まり、インフレ圧力が高まります。これは需要と供給の基本原理と同じで、お金が増えればその価値は相対的に下がります。
直近で分かりやすい例がコロナ禍です。米国では巨額の資金が一気に市場へ流れ込み、日本でも同様に景気下支えのための資金供給が行われ、M2は増加しました。ドルの急膨張ばかりが注目されがちですが、円も例外ではなかったのです。
購買力低下と物価上昇の関係
M2が増えると、通貨の価値は下がります。
その証拠が、私たちの日常生活で感じる物価上昇です。過去数十年、円やドルの購買力は確実に低下しており、同じ金額で買える商品やサービスは減っています。
コロナ禍で多くの仮想通貨が急騰しましたが、それは仮想通貨の需要増だけでなく、各国政府が法定通貨を大量発行したことで通貨価値が下がり、名目上の価格が押し上げられた側面もあります。
投資判断に活かすための物価指標
物価の動きは、通貨価値の変化を映し出す鏡です。CPI(消費者物価指数)やインフレ率、為替レートなどを定期的にチェックすることで、通貨の健康状態を把握できます。
これらの指標を追うことは、仮想通貨に限らず株式、金、不動産などあらゆる投資判断の基盤になります。
金融政策(低金利・量的緩和)が通貨価値に与える影響
低金利や量的緩和は景気刺激策として用いられますが、同時に通貨安を招く要因にもなります。市場に資金が潤沢に供給されれば、その分1単位あたりの価値は下がります。
実際、2016年の日銀によるマイナス金利導入や、2020年のFRBによるゼロ金利と大規模量的緩和は、円やドルの購買力低下と資産価格の上昇を同時に引き起こしました。
円安局面では海外資産が円建てで値上がりし、緩和マネーは株式や仮想通貨にも流れ込みました。
今後も景気後退局面では金利引き下げや量的緩和が再び行われる可能性があります。
こうした政策は短期的に市場を押し上げますが、長期的には通貨価値を押し下げるため、投資判断では「通貨の健康状態」も合わせて確認することが重要です。
ニュースが語らない“計算単位”のストーリー
資産側だけに注目させる情報の偏り
メディアは価格上昇を資産側の要因として報じがちです。「株価が上がった」「ビットコインが急騰した」といった見出しの裏には、計算単位である通貨の価値変動が隠れています。通貨が弱くなれば、資産価格は名目上押し上げられますが、その構造はニュースで語られることがほとんどありません。
通貨価値を読み解く情報源と指標
通貨の健康状態を見抜く投資家は、ニュースの半歩先を読むことができます。そのためには、通貨価値に直結する指標や用語を定期的にチェックし、変化の兆しを早期に掴むことが重要です。
ニュースで見かけたら注目すべきキーワード
- M2(通貨供給量)…通貨の増減を把握し、価値の希薄化やインフレ圧力を予測
- CPI(消費者物価指数)…購買力の変化を直接測定する代表的な指標
- 政策金利…金融政策の方向性を示し、通貨価値に直結
- FOMC / 日銀金融政策決定会合…金利や量的緩和の変更が決まる場
- 量的緩和(QE)/ 量的引き締め(QT)…市場への資金供給量を大きく変化させる施策
- 国債利回り(長期金利)…資本の流れや通貨価値の方向を示す重要なシグナル
- 為替介入…政府や中央銀行による通貨価値の直接的な調整
- インフレ期待(期待インフレ率)…市場が予想する将来の物価上昇を反映
- 外貨準備高…通貨の信用力や為替介入の余力を示す
これらのキーワードは、日経新聞や経済ニュースで見かけたら必ずチェックしたい項目です。単なる価格変動の裏側にある通貨の動きを把握できれば、仮想通貨はもちろん、株式、金、不動産など全ての投資判断に応用できます。
通貨価値視点を投資判断に組み込む方法
分析の基本:資産側+通貨側の二軸チェック
あらゆる価格は「資産の価値 × 通貨の価値」で決まります。銘柄やプロジェクトを分析するときは、同時に計算単位である通貨の強弱も確認しましょう。どちらか一方だけでは全体像を誤解します。
データ活用:M2、CPI、為替、金利の読み方
通貨の健康状態は定点観測で掴めます。M2(毎月)で供給の増減、CPI(毎月)で購買力の変化、政策金利と長期金利で金融環境、主要為替(USD/JPYなど)で相対的な通貨の力関係を確認しましょう。
- M2:増加加速=通貨希薄化リスク上昇のサイン
- CPI:想定超の上振れ=実質購買力の低下
- 政策金利/長期金利:利下げ・イールド低下=通貨安圧力に注意
- 為替:急激な円安・ドル安=名目価格の歪みが出やすい局面
全資産クラスでの応用例
仮想通貨:ドルが弱い局面はUSDT建て価格が名目上上がりやすい。株式:金融緩和局面はバリュエーション拡張が起きやすい。金・不動産:通貨安時に購買力維持の受け皿になりやすい――いずれも通貨側の文脈で補正して評価します。
おわりに|「価格のもう半分」を見る習慣
ニュースはしばしば資産側だけを語ります。しかし実際の価格は、資産と通貨の二つの物語が重なった結果です。通貨価値を定点観測に組み込めば、同じチャートでも解像度が一段上がります。
今日からの実践はシンプルです。M2・CPI・金利・為替をスケジュール化してチェックし、資産分析メモに「通貨側の一行コメント」を必ず添える。たったこれだけで、判断のブレとノイズは目に見えて減ります。