ブロックチェーンの世界では、現実のデータをどう安全に取り込むかが長年の課題でした。価格、天気、レース結果──それらを外から運ぶのがオラクルです。しかし従来の仕組みでは、途中で仲介者が入り、コストや透明性の問題がつきまとってきました。
API3は、その構造を根本から変えました。データの持ち主であるAPIプロバイダーが、自分のノードを直接運用し、ブロックチェーンに届ける。いわば「産地直送のデータ流通」を実現するプロジェクトです。中心となるAirnode(直営ノード)やdAPI(分散API)、そしてOEVネットワーク(データ更新時に生じる価値をアプリ開発者へ還元する仕組み)によって、透明で経済的なデータ供給を可能にしています。
この仕組みにより、価格予測や資産運用といったDeFi(分散型金融アプリ)は、現実の情報をより正確に使えるようになりました。つまりAPI3は、誰もが安全に使えるデータの道路を整備しているともいえます。ブロックチェーンと現実世界をつなぐ、新しい入口の形です(As of:2025-10-13(JST))。
- API提供者が自らノードを運用するファーストパーティ・オラクル。
- OEVネットワークでデータ更新時の利益をdAppへ最大80%還元。
- Chainlink=信頼、Pyth=速度、API3=透明性とコスト効率が強み。
目次
定義と価値提案(安全と速度を両立)
ファーストパーティ・オラクルでオラクル問題を解決
これまでのオラクルは、API提供者とブロックチェーンの間に第三者ノードを置く「中継型」でした。途中で情報が増え、コストもかさみ、どこまで信頼できるかが見えづらかったのです。
API3は、この構造を逆転させました。API提供者が自らノードを運用し、データを直接届ける「直営型」のファーストパーティ・オラクルを採用しています。たとえるなら、卸を介さず生産者が店頭に立つ“産直市場”のようなもの。中間手数料が消え、品質も保証されます。
この方式により、スマートコントラクトは信頼できるデータを即座に利用できるようになりました。信頼性(誰が出したデータか)とスピード(余計な経路を通らない)を両立し、DeFiをはじめとするブロックチェーンアプリの根幹を支えています。
市場の位置付けと供給状況
API3トークンはネットワークの血液のような役割を持ちます。供給上限はおよそ1億5300万枚、流通は8600万枚前後。ガバナンス投票や保険プールへのステーキングに使われ、仕組み全体の信頼を支える柱です。
トークン配分は、創業チーム30%、エコシステム25%、パブリック配布20%、パートナー10%、投資家15%。つまり開発者・利用者・出資者の三者が長期的に関与できるよう、力のバランスを取っています。成長を急がず、じっくり土台を築く設計です。
主要プロダクト(使いやすさで広がる)
Airnode & dAPI
Airnodeは、API提供者がブロックチェーンとつながるための“自動販売機”のようなノードです。一度設置すれば、あとは自動でデータを配信してくれる仕組み。これにより技術的なハードルが一気に下がり、専門知識がなくてもブロックチェーンに参加できます。
そして、その上にあるのがdAPI(分散API)です。複数のデータ提供者が共同でつくるフィードで、開発者は必要な情報を“サブスク感覚”で使えます。API3マーケットから数クリックで導入できるため、DeFi開発の初期コストを大幅に削減します。
つまり、Airnodeが“つなぐ装置”、dAPIが“流す仕組み”。この二層構造がAPI3の基盤を支えています。
OEVネットワークの仕組み
OEVネットワーク(Oracle Extractable Value Network)は、データの更新で生まれる“価値の余白”をアプリ開発者に還元する仕組みです。これはブロックチェーンで言うMEV(最大抽出可能価値)のオラクル版で、データ更新時に発生する利益を公平に分配します。
仕組みはシンプルです。オラクルの更新権をオンチェーン・オークションにかけ、落札者(サーチャー)がその更新を実行。得られた収益の80%がデータを利用するdAppに戻ります。これにより、これまで「コスト」だったデータ利用が収益を生む行為に変わります。
たとえるなら、電力を使うたびに一部が地域に還元されるスマートグリッドのような仕組み。使えば使うほどエコシステムが潤う──これがAPI3が提案する新しいオラクル経済です。
エコシステムの広がり
現在、API3は200以上のデータフィードを40以上のブロックチェーンに提供しています。DeFiの世界では、CompoundやYearnといった代表的プロジェクトがすでにAPI3を採用。さらに、OEV報酬を受け取るプロジェクトも増え続けています。
この拡張ペースは、まるで“新しい通信回線”が次々と開通していくよう。対応チェーンが増えるたびに、API3の影響範囲も広がっています。
仕組みの要点(動きと信頼のしくみ)
データの流れ(どう動くか)
API3の仕組みは、まるで一本の物流ルートのように整理されています。まず、API提供者がAirnodeを立ち上げ、自分のデータをブロックチェーンに直送します。するとそのデータはdAPIとしてAPI3マーケットに並び、使いたいプロジェクトがサブスクのように契約します。
各アプリは、スマートコントラクト内のAPI3ReaderProxyを通じてデータを取得します。更新が必要になると、OEVネットワークのオークションで落札者が更新権を得て、署名付きデータをブロックチェーンに書き込みます。全体の流れは「発信 → 公開 → 契約 → 更新 → 記録」という一本筋で、誰がどこで動いているのかが明確です。
たとえるなら、“データの産地直送ルート”。農家(API提供者)が出荷し、利用者(dApp)が契約し、配達員(落札者)が最新情報を届ける──この一連の流れをスマートコントラクトが管理しています。
信頼と検証の仕組み(なぜ安全か)
API3が特に重視するのは「誰がそのデータを出したのか」が明確であることです。各ノードは署名を付けて情報を送信し、受け取る側はその署名をオンチェーンで検証できます。これにより、途中改ざんや虚偽報告の余地をほぼゼロにしています。
さらに、OEVオークションで更新権を得た取引履歴はすべてブロックチェーン上に記録され、誰でも閲覧可能です。情報の出どころと流れが常に可視化されることで、透明性とスピードが両立する構造になっています。
この仕組みは、例えるならガラス張りの配送センター。誰がいつ何を運び、どこに届けたかを常に確認できる状態です。結果として、API3はデータの信頼を“構造そのもの”で保証しています。
トークンの使われ方(信頼を回す経済のしくみ)
ガバナンスの役割(誰が決めるのか)
API3トークンは、単なる仮想通貨ではなくプロジェクトの舵取り権を意味します。保有者はAPI3 DAO(分散型自治組織)に参加し、提案や投票を通じて開発方針を決めることができます。つまり「運営者」と「利用者」の境界がなく、誰でも意思決定に関われる仕組みです。
この構造は、まるで街の協同組合のようなもの。出資した人が自分たちのまちづくりに意見を出し、方向性を決めていくイメージです。中心に管理者がいないため、判断がゆっくりでも透明性が高く、コミュニティ全体の利益を優先しやすい特徴があります。
ガバナンス投票はステーキングによって行われ、長期的な参加者ほど発言力が強くなる設計です。短期投機ではなく、信頼を軸にした“持続的な意思決定”を促しています。
出典: [6]
保険プールとリスク共有(どう守るのか)
保険プールは、API3のもう一つの柱です。ステーカー(トークン保有者)が資金を預け、オラクルに障害や誤配信が起きた際の補償原資となります。もし何かトラブルが起きれば、このプールから補填が行われます。安全を“預かり合う”共同保険のような仕組みです。
この制度により、ステーカーは報酬を得ながらリスクも引き受けます。報酬を得る=責任を共有する、という構造がネットワークの健全性を保っています。言い換えれば、API3の経済は“利益と信頼を循環させる装置”として機能しているのです。
この仕組みを比喩でいえば、街の消防団に近い存在です。日常的には静かに支え、万が一のときは即座に動く。DAOのガバナンスが「まちの議会」なら、保険プールは「まちを守る手」。両者が合わさることで、API3は“信頼が経済を動かす”仕組みを形にしています。
出典: [7]
競合の最小比較(立ち位置を見える化)
オラクル市場の構図(なぜ複数が存在するのか)
オラクルとは、ブロックチェーンが自分で取得できない“現実の情報”を届ける仕組みです。価格や金利、天気、試合結果──データの種類も使われ方もさまざまです。だからこそ、用途に合わせて複数のオラクルが存在しています。
たとえば、高頻度取引に向いたものもあれば、セキュリティを最重視するもの、あるいは費用を抑えたいプロジェクト向けのものもあります。オラクル市場は、いわば情報の交通インフラ。それぞれが異なる“車線”を走り、データを最適な形で届けています。
この中でAPI3は、「透明性」と「コスト効率」のバランスに焦点を当てたプロジェクトです。誰がデータを出しているかを明示し、同時に運用コストを抑える──それが市場での独自ポジションです。
出典: [1]
主要オラクルとの比較(特徴と性格のちがい)
オラクル市場には強力なプレイヤーが並びます。Chainlinkは「信頼の広さ」、Pyth Networkは「スピード」、そしてAPI3は「透明性」を軸にしています。どれもデータを安全に届けるという目的は同じですが、得意分野が異なります。
Chainlinkは第三者ノードが集まる“中継ネットワーク型”。信頼性は高いものの、構成が重くコストがかかります。Pythは取引所が直接データを提供する“特化型”で、速度は圧倒的。ただし対応領域は限られます。API3はAPI提供者が自らノードを運用する“直営型”で、透明性とコスト効率を両立しています。
たとえるなら、Chainlinkは大企業の配送網、Pythは特急便、API3は生産者直送の市場。それぞれ得意分野が異なり、プロジェクトの性格によって選ばれます。
| プロジェクト | 更新頻度 | 特徴(ひと言) |
|---|---|---|
| API3 | 高速 | ファーストパーティ&OEV報酬 |
| Chainlink | 高頻 | サードパーティ・ネットワーク |
| Pyth Network | 瞬時 | 取引所データに特化 |
この比較から見えてくるのは、API3がスピード・信頼・コストの中間に立つバランスタイプだということ。極端な特化ではなく、どの層のプロジェクトにも導入しやすい“橋渡し的オラクル”としての立ち位置を確立しています。
投資家の見方(技術の次に“お金”)
採用スナップ(どこで動いているか)
API3の採用は、まずDeFi(分散型金融)の分野から広がっています。レンディング(貸付)や資産運用、DEX(分散型取引所)など、リアルタイムの価格データを必要とするアプリで使われています。
たとえば、Compoundでは金利設定、Yearnでは資産運用の最適化、INIT CapitalではDEXの価格算出に活用されています。どれも「正確なデータがなければ成り立たない」分野で、API3のファーストパーティ・オラクルが力を発揮しています。
| ユースケース | 連携先/採用先 | 基盤(チェーン略号) |
|---|---|---|
| レンディング | Compound | ETH |
| 利回り最適化 | Yearn | ETH |
| DEXオラクル | INIT Capital | ARB |
導入が進む背景には、OEV報酬など「使うほど還元される」経済設計があります。データ利用がコストではなく、収益の一部になる。この発想が、他のオラクルとの差を生んでいます。
評価スコア(As of:2025-10-13(JST))
API3の評価は、安定運用よりも拡張性と競争優位の高さにあります。採用や経済圏はまだ成長段階ですが、仕組みの完成度は高く、今後の広がりが期待されています。
| 項目 | スコア |
|---|---|
| 採用と稼働 | 3/5 |
| 安定運用 | 3/5 |
| 経済のつながり | 3/5 |
| 拡張性 | 4/5 |
| 競争優位 | 4/5 |
| リスク管理 | 3/5 |
| 成長の芽 | 4/5 |
| 総合 | 3.4/5 |
総合は3.4/5。技術的な透明性と経済設計の工夫が評価される一方で、実需の拡大が今後の焦点です。「仕組みは整った。次は使われ方」──これが投資家が見ているポイントです。
リスク最小セット(主要3点)
採用競争の激化
オラクル市場では、すでにChainlinkやPyth Networkといった強力なプレイヤーが存在します。これらは実績も提携数も多く、API3がどれだけシェアを伸ばせるかは不透明です。特に、既存のプロジェクトが一度Chainlinkに統合されると、切り替えコストが高くなります。
つまりAPI3は、まだ“新参の挑戦者”。優れた技術をどう広めるかが最大の課題です。市場では「機能」よりも「習慣の壁」を越える戦略が問われています。
OEV経済の安定性
OEV報酬は革新的な仕組みですが、前提となるオークション参加者が少ないと機能が弱まります。需要が薄れると、報酬の原資が減り、エコシステム全体の循環も鈍化してしまう可能性があります。
とはいえ、これは「成長痛」に近い段階。参加者が増えるほど取引の厚みが増し、OEV経済は安定していく構造です。つまり、初期は不安定でも、採用拡大そのものがリスクの解消につながります。
ガバナンスと規制リスク
DAOガバナンスは自由で開かれた一方、意思決定が遅れたり、投票参加率が下がったりするリスクがあります。また、オラクル事業そのものが「情報提供サービス」とみなされ、将来的に規制対象となる可能性もあります。
ただし、API3は透明性を前提に設計されており、監査や責任の所在を明確にする方向で進化しています。言い換えれば、「見える化された運営」がそのまま規制対応の基盤になっているのです。
Q&A
Q. API3とChainlinkの違いは?
A. 両者の違いは「誰がデータを届けるか」にあります。API3はデータ提供者自身がノードを運用するファーストパーティ・オラクル。つまり「生産者直送型」です。一方、Chainlinkは第三者ノードがデータをリレーする中継ネットワーク型で、より多層的に運用されています。
例えるなら、API3は「農家が自分で店を開く」方式、Chainlinkは「市場を通す」方式。どちらも必要ですが、API3の方が透明でコストが軽くなります。
Q. OEV報酬を受け取るには?
A. 開発者はAPI3マーケットから対象のフィードを選び、「Earn OEV Rewards」を有効化して登録するだけです。あとは、オラクル更新のオークション収益の一部(最大80%)が自動で還元されます。難しい設定はなく、いわば「データを使うだけで稼げる仕組み」です。
この報酬モデルは、データ利用をコストから“収益の一部”に変える設計。DeFiの世界で持続的に使われるきっかけを生んでいます。
Q. API3トークンの主な用途は?
A. トークンはDAOガバナンスへの参加権であり、同時に保険プールへのステーキング資産として使われます。投票を通じて方針を決め、プールを通じて信頼を守る──この2つの役割を合わせて、API3のエコシステムを動かしています。
たとえるなら、ガバナンスは「まちの議会」、保険プールは「まちの消防団」。市民(トークン保有者)が自分のまちを支える構図です。
付録(一次情報と公式ドキュメント)
API3は「オラクルを誰が運営するのか」という問いに正面から挑んでいます。 データ提供者自身がノードを立て、利用者に報酬が還元される──その仕組みは、これからのWeb3で“信頼をどう設計するか”を考えるうえでの重要な手がかりになります。
※本稿は情報提供であり、特定銘柄の取得/売却を勧誘するものではありません。
- Api3 — Overview for dApps — https://docs.api3.org/dapps/
- Api3 — OEV Network — https://docs.api3.org/oev-searchers/in-depth/oev-network/
- Api3 — Getting paid(OEV Rewards) — https://docs.api3.org/dapps/oev-rewards/
- Api3 — Airnode(concepts, legacy docs) — https://old-docs.api3.org/airnode/v0.7/concepts/airnode.html
- Api3 — Using Api3 Market(integration / ReaderProxy) — https://docs.api3.org/dapps/integration/
- Api3 DAO — Staking Tokens — https://dao-docs.api3.org/members/staking.html
- Api3 DAO — The DAO Pool(service coverage) — https://old-docs.api3.org/dao-members/introduction/dao-pool.html
- CoinMarketCap — API3 price today — https://coinmarketcap.com/currencies/api3/
- Messari — API3 Token Unlocks / Allocations — https://messari.io/project/api3/token-unlocks
- Api3 — Oracles that pay you(official site) — https://api3.org/
- CoinGecko Learn — API3 case study(40+ chains, OEV rewards) — https://www.coingecko.com/learn/api3-case-study
- Base Docs — Oracles(API3 section) — https://docs.base.org/base-chain/tools/oracles
- Chainlink Docs — Price Feeds(independent node operators) — https://docs.chain.link/data-feeds/price-feeds
- Api3 Whitepaper v1.0.3 — https://old-docs.api3.org/api3-whitepaper-v1.0.3.pdf



